これだけの追加財政負担が予想されるのに、解せないのは、ムーディーズやスタンダード&プアーズ(S&P)、フィッチといった格付け機関が一向に米国債の格付けを見直さないことだ。08年12月時点で3社とも米国債にトリプルAなど最上級の格付けがなされたままである。
日本国債に対して与えられた格付けを考えると、彼らがいかにダブルスタンダード(二重基準)で動いているかが分かる。米ムーディーズは、日本の長期債務が激増しつつあった1998年11月に日本国債の格付けをトリプルAからワンランク下のAa1に格下げしたのをはじめ、2002年5月のA2にいたるまで段階的に引き下げていった。S&Pも同様に01年2月から02年4月にかけて段階的に引き下げている。日本が失われた10年を抜け出した07年になってやっと格付けは引き上げられ、いまはムーディーズがAa3、S&PがAAである。
日本国債は一時、世界最貧国のひとつであるボツワナ並みに格下げされたにもかかわらず、米国債の評価がずっと不変なのは不思議な現象だ。市場関係者の間では「怖くて格下げできないのだろう。おそらく政治的な圧力もあるに違いない」という観測が広まっている。せめて格付け機関が開示する「アウトロック(先行き見通し)」ぐらいは「ネガティブ(否定的)」に変更してもよさそうなものだが、みな「ステイブル(安定的)」から変えようとしない。これでは米国債の格付けは粉飾されているといっても過言ではない。
フィッチは11月26日、トヨタ社債の格付けを一気に2段階も下げてAAとしたうえ、アウトルックも弱含みにした。フィッチのプレスリリースによれば、急激な円高や北米市場の縮小によって利益が大幅に減ることが引き下げ理由らしい。しかし、世界市場の縮小によってトヨタの利益が大幅に減ったといっても、12兆6,000億円もの連結利益剰余金のあるトヨタに、社債のデフォルトリスクが高まっているとは思えない。「格付けは目先の利益の低下を問題にする性質のものではない。大事なのは債券が償還時に支払われる可能性があるかどうかだ」と、市場関係者は言うが、まさにそのとおりだ。
トヨタを格下げするというのであれば、なぜ米国債を下げないのか。
米国債は、日本や中国などの外貨準備や大手金融機関が保有し、MMFなど金融商品に組み入れられている。格下げしたときの世界的な大パニックを恐れて、格付け機関がだんまりを決め込んでいるのではないか。そう見る市場関係者は多い。