弊社は苦い経験をした。しかし、この問題は中小企業にとって死活問題である。業務委託契約者が突然、労働者を装って労働審判に持ち込み、労働者認定を受けて残業代請求が認定された。この問題は中小企業にとって他人事ではない。
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信用失墜させたので業務委託を解除した
弊社の編集業務を委託していた人物Aがいた。『I・B』編集業務に続いてネット編集業務を委託した。その過程で問題が発生したのである。ネットのスクープ記事が2チャンネルで取り上げられた。その反応の大きさに驚いたAは、無断でこの記事を抹殺した。この人物にしてみれば2チャンネルに取り上げられたことに『炎上した。信用を失墜する』と驚きうろたえての暴走行為であったのだ。
筆者は「2チャンネルに掲載されたのが何故、悪いことなのだ。話題になることは名誉なことではないか!! アップした記事の反響に狼狽して取り下げることこそが信用を失墜させる行為である。まずは電話して判断を求めるべきであった」と追及した(日頃のAは優柔不断。瑣末なことまですべて許可を求めてくる習性があった。「そんなことは自分で決定してくれ」とつっ返すことも度々あった)。ところが今回の件では、Aから弁明の一言もない。非も認めなかった。「この人物には記事を発信する社会的使命感のかけらもない。弊社の編集理念と相容れない」と判断して、業務委託契約の解除を通告した。
業務契約書は認定されず
Aは労働問題専門の弁護士に相談に行った。この弁護士は「労働偽装であり、不当解雇である」と労働審判に持ち込んだ。争点の骨子は(1)不当解雇の撤回ないし精神的慰謝料の請求 (2)2年間の残業代の請求の2点である。詳細はここでは省略するが、労働審判の場では持ち込んだ当事者側の一方的な証言によって審議が進められるということを初めて体験して、次のような本質を知った。貴重な体験である。労働審判というものは持ち込んだ側(労働者側の言い分)に沿って審議が進められる。『嘘と虚偽』で固められた材料が一人歩きするのだ(そこには、会社側が色眼鏡で見られてしまうような風土がある)。会社側の見解、言い分を展開することは、とてもじゃないが不可能であった。相手の土俵でしか論争が出来なかったことには、歯がゆい思いをしたものだ。
労働審判の結果から述べよう。労働者であることを認定する根拠は、タイムカードにある。弊社にも対策に稚拙な一面があったのは事実である。まーしかし、この点はどの中小企業でも同じであろう。事前に労働問題に対する防御策を講じている企業は、まずあるまい。苦い経験をして初めて知恵がつく。あざ笑われることには反論しない。確かに幼稚であった。業務委託者(わかりやすく言えば取引業者)にタイムカードを押させていたとは物笑いの種だ。
『タイムカードで管理していたことは、実態としては労働者管理ではないか!! 業務委託契約は労働偽装である』との労働審判での判定である。Aは社内では同僚たちに「社員契約よりも業務委託契約のほうが気楽で良い」と公言していたのだが――。労働者であるという認定の上で(1)不当解雇であるという裁定(弊社側はAに対して取引業者と認識していたのだが) (2)残業代はいくらか払え!! (A側の当初の要求額の3分の1)という裁定となった。弊社としては裁定に不服というよりも「裁判の場で大いに論争すべし」との覚悟で、裁判所での法廷審議の申し立てを行なった。(つづく)
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