佐賀銀行の個人株主敗訴事件の波紋、刑事事件に発展か!
1.佐賀地方裁判所の判断
(1)取締役会議事録の閲覧・謄写の請求は、株主の権利を行使するため必要があるときに、裁判所の許可を得て、これをすることができる旨規定されている(会社法371条2項、3項)。そして、裁判所は、閲覧・謄写により当該会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、上記の許可をすることができない旨規定されている(会社法371条6項)。
そこで、株主の権利行使の必要性の有無及び当該会社(被申請人)に著しい損害を及ぼすおそれの有無という各要件について検討する。
(2)株主の権利行使の必要性の有無について
1)株主としての権利を行使するか否かは、当該取締役会議事録を閲覧・謄写し、その内容を検討してみて初めて判明する事柄であることは否定できないことから、権利行使の要否を判断するためという場合についても必要性が肯定されることになると解される。
2)前提事実並びに疎明資料等によれば、
ア.被申請人佐賀銀行が優先株式を有し、かつ、東峰住宅について、2007年5月10日、本件M&Aが成立したこと
イ.東峰住宅は、特別清算された旧東峰住宅産業(負債総額53億円)のマンション販売部門を04年1月に承継した会社であること
ウ.本件M&A当時、被申請人が有していた東峰住宅の優先株式は、発行済株式総数の90%以上を占めていたこと
エ.本件M&A当時、被申請人の東峰住宅に対する融資額は約23億円と多額であり、借入金総額に占める割合も60%以上を有していた 等の事実が認められる。
(3)以上の被申請人である佐賀銀行と東峰住宅の関係に加え、本件M&Aの前に特別清算手続がとられていたという経緯からすると、本件M&Aの成立が佐賀銀行に及ぼす影響は小さくなく、また、手続の適正性を吟味する必要がないとまではいえないというべきであるから、取締役に対する責任追及等の権利行使の要否を判断するに値する特定の事実関係が存在し、かつ、取締役会議事録の検討結果によっては、申請人が取締役に対する責任追及等の権利行使をすることを想定することができると一応認められ、そして、本件申請は、東峰住宅の譲渡(M&A)等に関する取締役会議事録の謄写の許可を求める旨のものであって、上記の権利行使の要否を判断するために関係のないものともいえない。以上によれば、株主の権利行使のため必要があるときという要件に該当すると一応認めることができる。
(4)これに対し、被申請人佐賀銀行は、本件申請は情報収集目的という申請人の個人的利益を図る目的のためにされたものであって、株主権の行使に名を借りたものである旨主張するので、さらに検討する。
申請人も本件申請について情報収集の目的もあることは自認しているところ、確かに、前記前提事実で認定した申請人の被申請人の株式取得の経緯等からすれば、もっぱら本件M&Aの経緯等に関する情報収集のため、本件申請を行ったとみる余地もないではないが、上記株主としての権利行使の目的と情報収集の目的は相反するものではなく、情報収集の目的があるからといって、株主としての権利行使の目的が排斥される関係にはないといえること、個人的利益を図る目的が併存している場合に、株主権の行使を認めないとなると、株主の権利という重要な権利を著しく制約することになりかねず、個人的利益を図る目的が併存していても株主権の行使は妨げられないと考えられること、そして、本件では上記検討のとおり、株主としての権利行使の要否を判断するに値する特定の事実関係が存在し、権利行使をすることを想定することができると一応認められ、株主としての権利行使の蓋然性がないとはいえないこと、以上のことからすれば、直ちに、本件申請が、株主としての権利行使に籍口した請求であるとまでは認められないというべきである。よって、上記必要性の要件が否定されるものではなく、被申請人佐賀銀行の上記主張は採用できない。(つづく)
【久米一郎】
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