【気になる本、ナナメ読み】 vol.8
最近、人を人として扱わない最たるものとして「派遣切り」の問題が取り上げられる。今回紹介する『壊れた福祉』になぞらえれば、「壊れた派遣システム」ということになろう。今思えば、弱者切り捨ての急先鋒が後期高齢者医療制度や障害者自立支援法だったのではないか。
同書は著者が「週刊現代」に連載したルポをまとめて、加筆修正したもの。内容は、福祉の仕組みや法の問題点などを解明するといったものではなく、地道な取材(事実)を積み重ねて「壊れた福祉」像を露わにしていこうとするものだ。
高齢者の孤独死、殺人、心中が日常的に起こる老老介護の現場、「応益負担」で苦境に立たされる障害者、生活保護申請者を福祉事務所の窓口で追い返す“水際作戦”など、我々の身近な福祉問題を現場の声を丹念に拾い上げて明らかにしている。政策に明らかな欠陥があることは同書の通り。だが著者も言うように、嘆き、非難することは簡単で、問題はこうした事実を受けて何をするかだ。政権選択もひとつの道だろう。
不況の現在、ますます福祉が壊れていくことは容易に想像できる。同書の登場人物たちと同じ立場にある方も一読してみると良いだろう。また、この本はこれから高齢者を支える立場になる若い世代の人にぜひ読んでもらいたい。いずれ己が身にも降りかかる未来であることは間違いないのだから。
【大根田康介】
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