日本経団連の御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)が言い出したワークシェアリング。経営側であるはずの経団連と日本商工会議所の意見もまとまらないまま、言葉だけが先行している。
ワークシェアリングが雇用の確保につながるとする御手洗氏の考え方は、大企業のご都合主義に過ぎない。仕事を分け合い、より多くの人間に働く機会を与えるというが、仕事を分け与える方は、当然1ヶ月の実入りが少なくなる。つまり痛みを共有しろということだろう。なんだか「格差」をばら撒いた総理が言っていたような話である。
仕事量が極端に減りつつある中小企業などでワークシェアリングを実施すれば、ただでさえ給料の少ない従業員たちは、益々困窮することになる。「雇用の確保の方が大切」とする意見もあろうが、内需拡大に水をさす手法は特効薬にはならない。年功序列という、ある意味で日本型雇用の良さを維持する多くの中小企業にはなじまないということもある。中小企業経営者の加盟が多い商工会議所が、ワークシェア導入に慎重な理由でもある。
御手洗氏が言うワークシェアリングは、正規従業員を対象とするもので、賃下げが前提となる。1人でやれる仕事を複数でやるということは、ひとつの仕事に対するコストが一定である以上、1人当たりの賃金は減ることになる。これは大企業にとって都合のよい話でしかない。経営側は懐を痛めることなく従業員側に「痛み」だけを押し付けておけばいいのだから笑いが止まらない。「あなたの仕事を他の従業員に回してね。もちろんあなたの賃金は減ります」と言われて、意欲が湧くはずもない。経営側は雇用を維持することで批判をかわし、そのうえ必要な仕事量は消化させる。内部留保を取り崩す必要もない。
経団連トップにある御手洗氏の出身母体は「キヤノン」である。トヨタに次いで大量の「派遣切り」を発表し、ひんしゅくを買ったが、どこまでの都合のいい経営者である。弱者に対しての「痛み」は全く感じない人なのかもしれない。
今必要なのは内需の拡大である。欧米の景気に左右される輸出関連企業にはなかなか先の見通しが立たない。内需拡大で国内の景気を刺激し、企業の「仕事」が増えるような施策が求められている。もちろん大企業は、ある程度の内部留保を吐き出す痛みも覚悟しなければなるまい。この2ヶ月あまり、リストラに踏み切る様々な経営者から「経団連トップの企業、例えばトヨタやキヤノンでさえ、リストラしているんですよ」といった言葉を聞かされた。トヨタやキヤノン、そして経団連がリストラの「免罪符」を発給したという事実を前に、御手洗氏はなんの反省もないのだろうか。
ワークシェアリングは企業の体力を奪うことはあっても活力を与えることはない。デフレ時に定着しなかったものが、この最悪の事態のなかで議論されること自体ナンセンスである。それより経団連のトップを変える方が先決であろう。ゼネコン経由の裏金問題に揺れるキヤノン会長が、経団連トップに居つづけることこそ問題なのだ。
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