格差社会をもたらした労働派遣法改正
小泉純一郎政権は諮問政治といわれた。規制改革・民間開放推進会議がまとめた規制緩和の重点項目を、経済財政諮問会議が検討、政府の施策に組み入れたからだ。経済財政諮問会議の司令塔である竹中平蔵・元総務相(現・慶応大教授)と推進会議議長の宮内氏が、「官から民へ」の小泉構造改革の両輪を果した。
宮内氏が議長を務める規制改革会議は労働市場、医療など重点6分野の規制緩和を提言。現在、問題になっている製造業への派遣労働の自由化を推進した主力機関だ。
メーカーの製造ラインへの労働者派遣が解禁したのは、04年の労働者派遣法改正。規制緩和を錦の御旗に掲げる小泉構造改革のひとつ。安い労働力を背景に、世界市場を席巻している新興工業国に対抗するために派遣労働を解禁。派遣の賃金を低く抑えること、派遣をいつでも解雇できるようにすることに狙いがあった。派遣法改正が社会の格差を拡大し、非正規労働者の大量解雇をもたらしたと非難にさらされているのは、そのためだ。
派遣労働の自由化については、規制緩和を論議する会議のメンバーに、利害関係者である人材派遣会社の経営者が組み込まれたことがそもそも重大な問題だった。
改革会議には、人材派遣業界からザ・アールの奥谷禮子社長とリクルートの河野栄子社長の2人の委員が入っていた。しかも、改革会議議長の宮内氏が会長を務めるオリックスはザ・アールの第2位の大株主で、リクルートはザ・アールの取引先である。
3社は事業上にも密接なつながりがあり、中立性に疑問をもたれたのは当然のこと。改革会議での検討内容が、ほとんどそのまま閣議決定され、労働者派遣法改正が成立した。
“宮内チルドレン”と陰口を叩かれたザ・アールの奥谷社長は当時、「格差論は甘えです」「今の失業はほとんどが『ぜいたく失業』」と発言して物議を醸した。
改革利権の受益者
宮内氏は公人と私人(企業人)の立場を実に巧みに使い分ける。公人としては参入障壁が高い分野の扉をこじ開け、企業人としては先頭に立って、その分野に新規参入する。規制緩和を推進して、既得権益を潰した後には、新たな利権が生まれる。規制緩和・民間開放のリーダーという立場を利用して、改革利権を商売に結びつけてきたのが宮内氏だ。
宮内氏が享受する改革利権は、3つに分かれる。1つは、本業である金融部門の規制緩和による改革利権。2つは、行政に保護された統制経済の規制緩和による改革利権。ターゲットは農業・医療・教育の分野。3つは官業開放による改革利権である。
宮内氏が主導する規制緩和が実施されるたびに、オリックスはその分野に投資をし、新会社を立ち上げてきた。あの村上世彰氏(インサイダー取引容疑で公判中)が率いた村上ファンドは、オリックスの子会社だった。
98年の投資信託法の改正で私募ファンドの設立が認められるや、翌99年に通産省(現・経済産業省)を退官した村上氏にオリックスグループの休眠会社を与えて投資会社にし、同時に投資会社に45%出資し子会社に組み入れた。
宮内氏が力を入れたのは医療分野の規制緩和。99年に、官による事業を開放する規制改革としてPFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ)推進法が成立。経営を民間企業に委託するPFI方式を採用した全国初の公立病院、高知医療センターの運営を引き受けたのが、オリックスグループを中心とする特定目的会社だ。
06年には、小泉規制改革の実験場である神奈川県の構造改革特区に誕生した日本初の株式会社病院バイオマスターにオリックスが投資している。数えあげればキリがない。
「規制緩和は最大のビジネスチャンス」。宮内氏の有名な語録だ。
問題は、ルールをつくる側とプレーヤーが1人2役を兼ねていること。規制緩和は新しい利権を生んだ。改革利権の最大の受益者が宮内氏のオリックスである。
「かんぽの宿」をオリックスグループが一括譲渡するのも、郵政民営化がもたらした改革利権にほかならない。だが、その改革利権を享受することに待ったがかかった。格差社会の拡大によって、その象徴的存在の宮内氏に逆風が吹きつける。
【日下淳】
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