世界恐慌の中、日本の政治の停滞は目を覆うばかりだ。麻生首相がたとえどんな政策を打ち出そうと、支持率10%台と国民の信頼を失った総理大臣に国の舵取りなどできるはずがない。ましてや、この総理大臣は2兆円ばら撒きと「消費税増税」しかいえないではないか。それなのに、自民党は政権延命で“奇妙な結束”を保ち、民主党は本気で政権を追い詰めようとしない。なぜなのか――。
◆自民党の2つの“乱”が不発に終わった。第一は2兆円の定額給付金に反対した渡辺喜美・元行革相兼金融相の造反だが、たった1人の離党に追い込まれた。続いて起きたのが麻生首相の「3年後の消費税増税」路線に対する中川秀直・元幹事長や塩崎泰久・元官房長官らの反乱だったが、こちらは反乱軍側にまだ党を割る覚悟がなく、玉虫色の妥協となった。
「総選挙が近づけば自民党から数人ずつ、離党者が出るかもしれないな。」
消費税増税をめぐる党内調整が決着したあと、町村派会長の町村信孝・前官房長官はそうもらした。
かつて宮沢政権末期にも、自民党から小沢一郎氏や武村正義氏らのグループが飛び出し、自民党は総選挙に敗れて下野した。だが、あのときは造反で内閣不信任案が成立、自民党にはまだ分裂のエネルギーが残っていた。
いまやそれさえない。数人ずつ、沈む船から救命ボートで脱出する者が出るという意味だろう。
「支持率低下が逆に麻生政権を延命させている。執行部も反麻生派も、首相を支えようという者はほとんどいないが、解散すれば自滅という認識は共通している。麻生に7月のサミットまでやらせて、総裁選を前倒しする。8月に表紙を替えてから、新内閣で任期満了に近い解散・総選挙を打つしかない。」(津島派幹部)
自民党内ではポスト麻生をにらんで、石原伸晃氏、舛添要一氏、石破茂氏らを担ごうという動きが水面下で始まっている。安倍内閣以来、4回目の首相交代ではさすがに国民にも足元を見透かされて支持率アップなど期待できないが、「誰が次の総理・総裁でも麻生よりましと党内にコンセンサスができつつある」(同)という。
まさに滅びに向かう徳川幕府と同じ状況である。
そもそも、こうした政治の行き詰まりは、自民党に「野党になる覚悟」がないことに大きな原因がある。
小選挙区制導入という選挙制度改革は、政権交代可能な2大政党制度を前提にしたものだ。しかし、自民党は制度導入後も、社会党、自由党、公明党と連立相手を取り替えることで“永久に与党でいられる”という幻想にすがってきた。
それが、いよいよ政権の座を追われかねない事態に直面したとき、負けたら野党となって政策を磨き、再起をはかるという民主政治の基本精神ができていないのである。総選挙前に、自民党からあわてて「1院制」や議員定数削減など選挙制度改革論が出てきたのがご都合主義の証拠である。(つづく)