必然性が問われる 安易な民生法の選択
銀行の思いは別にしても、同社の民事再生法申請には疑問がある。現在は様々な再生スキームによる手法があり、法的申請に頼らなくても再生の道があったのではないか?との疑問だ。
業種は異なるが、同じように借入金で店舗展開を行ない、市況の悪化から資金繰りに行き詰った企業では、法的申請ではなくDES(デット・エクイティ・スワップ)を用いたケースがあった。これは債務の株式化と言われるもので、現在では一般的な再生スキームとして認知されている。
メインバンクを中心に借入金の一部を株式に転換し、その後減資する。銀行の持株比率が増え、既存株主(中小企業では経営者もしくは一族が大半)の持株比率が減る格好になるが、借入金負担が軽減されることで利幅が拡大するため再生が容易になる。銀行としては一旦、貸付金を棒引きするようなかたちになるが、再生が軌道に乗り企業価値が上がれば、保有する株式の価値も上がるため、そこでリターンを得る可能性が出てくる。
DESに限らず、ほかにも様々な手法があり、大長商事は民事再生法の申請をする必要があったのかという疑念は拭いきれない。また、今後の再生計画についても看過できない面がある。会長及び社長は破産の意向と聞かれているが、必ずしも破産する必要はないのではないか。現在は特定調停などもあり、これは破産せずに返済できる金額を決めた上で返済していくというものだ。
返済できる金額には限度があるため、大幅に借金は減額されるが、簡単に破産してほとんど配当できないよりも、少しでも返済できる分は返済していくという姿勢のほうが真っ当ではないか。さらにスポンサーも付けず、誰か(現時点では未定)を社長に就任させ存続を図るというのも理解に苦しむ。スポンサーを付けず再生の可能性を減らすのであれば、最初から民事再生法など申請せず破産すべきではないか。安易な判断で民事再生法を選択したとの謗りを免れることはできないだろう。
債権者の同意を得て再生の道を歩めるか?
「現状の体制では利益が出る体質ではなく借入金の返済ができない」「一部の銀行からは借り換えに応じない意向を受けており、他の銀行も同様の対応が予想されたため、早期の対応が必要と考え今回の措置となった」というのが同社側の言い分である。だが、前述したような理由から、債権者とくに銀行からの理解が得られるかどうかは分からない。
今後のスケジュールでは、3月17日までが債権届出の期間であり、5月28日頃が再生計画案の提出予定となっている。一般的には再生計画案提出から約2カ月後に債権者集会が開催され、債権者の同意を受けて可決の流れとなる。しかし今回の場合、債権者数の過半数および債権額の2分の1の賛成という条件がクリアできない可能性がある。とくに債権額に関しては金融債務が多いため、銀行の同意が得られなければ厳しいものになる。
一般債権者の被害を最小限に食い止めるために民事再生法を活用することは賛成だが、それが自分本位のものであってはならないはずだ。現在までの状況を見る限り、虫のいい再生計画にしか思えないがどうだろうか。
【緒方 克美】
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