第5章 策略(3)
岡田は腹心の部下として、坂本の手となり、足となり、よく働いた。
秘書部長も広報部長も、自分の昇進につられて、協力することに同意してくれた。
サラリーマンは地位と名誉には弱い。坂本の周辺には、正義感を持つ、骨のある人間はいなかった。
それ以降、秘書部長の報告で、社長室へ出入りする役員の目的が分かるようになり、坂本の身辺調査をしているのは、尾島、細川の両常務だけであることがわかった。
しかも、彼らがつかんでいるのは噂だけで、まだ、はっきりとした確証が取れていない段階であることもわかった。
坂本は安堵した。「確証をとられていない限りは、大丈夫だろう」と思った。
しかし、「一寸先は闇、何があるかわからない。事を決定的なものにするために、急がなくてはならない」と強く思った。
岡田に「広報部長とよく打ち合わせをして、新聞社への根回しを抜かりなくするように」と指示した。
岡田は「営業統括本部は今度、台湾へ2泊3日の社内旅行にでかけることになっていますが、その中日に、記事が出るように仕掛けます。坂本専務は国内にいないのですから、専務からの情報ではないというアリバイができます。“自分のあずかり知らぬことだ”と言えばいいことですから」と、実行日が決したことを報告してきた。坂本は、「あいつもやるなあ」と感心した。
坂本の胸中では、「いよいよだな!」という期待と不安の念が交錯していた。
坂本は台湾への社内旅行から帰ると、おもむろに自宅の新聞に目を通した。そこには、「山水建設、坂本社長に決定! 中井社長は会長へ」との活字が躍っていた。「来年6月の株主総会で正式決定!」との解説も付されていた。
坂本は、すぐさま岡田に電話した。「新聞を読んだ。世話になったな。ありがとう」。
岡田は「無事のお帰り、ご苦労さまでした。これで、坂本社長は確定です。記事は、中井社長の裏をとったうえで書かれているみたいです。中井社長は、記事が書かれることには反対しなかったみたいですよ。これで決まりです。おめでとうございます」と祝福を述べた。坂本は岡田の労をねぎらった。
翌朝、出社すると、社内の様子は一変していた。
「おはようございます」「おめでとうございます」と会う人ごとの挨拶であった。
電話のおめでとうコールもすさまじかった。坂本は人生最良の日を迎えていた。
(この物語はフィクションであり、事実に基づくものではありません)
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