奇策視される政府紙幣だが、主唱する議員らによると、こんなメリットがあるという。ひとつはこれを数十兆円規模で発行することで有効需要を創出できる点だ。通貨法上では記念通貨(政府紙幣)の発行量は政令で決めるとされており、ねじれ国会のもとで民主党の抵抗にあわずに内閣だけで発行量を決めることができる。さらに、国債と違って、返済期限があって返済しなければならないものではないため、国の長期債務にカウントされることはないという。つまり財政規律を損なわないで発行できる、というのである。
とはいえ副作用もある。これに味をしめると、政府紙幣依存症になりかねない。公共事業の拡大に歯止めがかからず、自民党の政治家と建設業界との癒着がさらに深まる可能性も高い。
もちろん、与党の主流派、および自らの縄張りを侵されそうな日銀・財務省は政府紙幣構想には猛反発だ。日銀の白川方明総裁が「通貨の信認が阻害される恐れがある」といえば、財務省の杉本和行事務次官も「財政法が禁じる日銀の国債引き受けと同じ」と反論。与党の中でも「異説のたぐい」(与謝野馨財務相)、「マリファナと同じ」(伊吹文明元財務相)、「円天みたいなもの」(津島雄二税制調査会長)と打ち消す動きが拡大している。
確かに奇策とはいえ、政府紙幣構想が浮上するのは、政権末期症状の麻生太郎内閣が、有効な経済政策を打ち出せないことが背景にある。麻生首相の目玉の定額給付金も愚作のうえ、1人2万円の給付というのでは、規模はたかがしれている。そこで政府裁量で発行でき、財政規律を損なわないという触れ込みの政府紙幣構想に飛びつくグループ(=上げ潮派)がにわかに形成されたのだ。
一方、ヘベレケ会見で失脚した中川昭一氏に代わって、財務官僚に受けがいい与謝野氏が財務相を含む3大臣兼任となった。麻生政権がレームダック化するなかで、実質的に与謝野氏がキーマンとなろう。その与謝野氏はかねてから財務省主流派に考え方が近く、目先の経済悪化を受けて大掛かりな財政政策を出動することに慎重だ。むしろ、かねてから財政再建が持論で、消費税の税率を引き上げる増税のほうに積極的だ。
「つまり財務省にコントロールされている与謝野さんの渋ちん路線に対し、我々が揺さぶりをかける道具に出来るのです」と、政府紙幣・無利子国債発行を検討する議員連盟の関係者の1人は言う。政府紙幣がそのまますんなり実現するかどうかは分からないが、及び腰の経済政策を展開している自民主流派や財務省、日銀に対して、大盤振る舞いという対立軸を提示して争う構図がうかびあがる。「政局」の材料になるかもしれないのである。
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