マネーゲームとしての株式買取請求権
村上ファンドの残党にとって、トラブル続きの会社はメシの種である。投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネジメント(シンガポール)がテクモ株の買い占めに入ったのは、08年11月17日。テクモがコーエーとの統合を正式に発表する前日だ。
エフィッシモは11月、12月、09年1月と買い増していき、2月4日には18.18%を保有。筆頭株主である創業家の資産管理会社、環境科学(29.0%)に次ぐ2位の大株主だ。
エフィッシモは06年に、村上ファンドのファンドマネージャーを務めた高坂卓志氏ら元社員たちがシンガポールで設立した投資ファンド。村上ファンドがそうであったように、株式を買い占めるのはトラブル続きの会社だ。株券が流出した学習教材大手、学習研究社の株式を大量取得したことで知られる。
エフィッシモがテクモ株を大量に取得した狙いははっきりしている。会社側に高値で買い取らせることだ。会社法の改正で、合併などの企業再編の株主総会が行なわれた時に、議案に反対した株主が会社との関係を絶つために、保有する株式を会社に買い取りを求めることが可能になったためだ。これを株式買取請求権という。投資ファンドにとっては、保有株を売り抜けるマネーゲームの道具になったのである。
09年1月26日、テクモは臨時株主総会を開催。柿原氏は社長兼務を外れ会長専任となり、新社長には、みずほ証券出身の阪口一芳氏(50)が就任。コーエーとの経営統合が承認された。エフィッシモは経営統合に反対。
そして2月4日、持ち株比率を18.18%に引き上げたうえで、株式買取請求権の行使を検討すると表明。エフィッシモは1株800円以上で仕込んでおり、現在のテクモ株の株価は700円。どのくらいの価格で買い取るのか。余分な出費がかさむ。
創業者の死が招いた経営混乱。テクモの迷走は、他人事ではない。
【日下淳】
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