反効率追求の経営観 今こそ原点に返るとき
若山社長がウエストのトップに付いて9カ月。米国子会社の代表も兼務することから、2カ月に1度はNYに飛ぶなど、多忙な日々を送っている。
しかしこの間、本社では社員とのコミュニケーションを徹底。自分の顔と名前を憶えてもらう一方、社長自身も店や社員、業務の仕組みについて吸収していったという。
そして、好調なうどん業態はさらに拡大を進め、焼肉業態のテコ入れも矢継ぎ早に断行。新業態の開発にも積極的に挑んでいる。ただ、外食業界がどうすればいいかといった大上段のテーマになると、なかなか明確な答えは出せないようだ。
「うどん店が好調な理由は、私でも今の社会情勢を見ればわかります。また焼肉は苦戦していたから変えたわけです。店舗を改装し、メニューを新しくしたら、自然と収益構造は変わっていきます。要は立地や客層に合わせて何をやるか。郊外で居酒屋をやってもダメでしょう。都市部は客層がファミリーからヤングに変わっているので、ランチ需要を取り込むとか。要はそういうことを一つひとつやっていくしかないと思います」。
苦戦していた既存店が次々とリニューアルされ、売上げも徐々に回復基調に。多忙な社長業の合間にも店まわりを行ない、頑張る店長の様子を見ていると、トップとしての考えが少しずつ浸透しているという手応えもあるだろう。
ただ、権限は積極的に部下に委譲している。メニューについても最終決断はするが、テイスティングは30代のスタッフが担当。若い世代はハンバーガーを食べて育っているので、マヨネーズやケチャップを好む。だから、その人たち向けのメニュー開発は同じ世代がした方がいい、という考え方だ。60歳を過ぎた人間が口を挟むことではないと、若山社長はメニュー会議にも出席しないという。
「今は、こんなものが売れるのか、と思うものが逆に売れます。だからスタッフにはどんな業態やメニューがやりたいかをすすんであげさせ、やってみることを勧めています」。
ウエストは業態の可能性にかけながら、柔軟性を武器に市場を開拓している。若山社長も自身の経営観として、「ビジネスは楽しめなければ意味がない。自分が楽しいのは店を作ること」と言い切る。その姿勢にチェーン論理や経営効率の追求は微塵も感じない。
「面白いお店を提案して、お客さんが来てお金を落としてくれる。お客さんのクオリティオブライフを実現しないと、商売する意味はないと思いますね」。
ウエストの戦略、若山社長の経営観をみると、カギは変化する客層、立地の状況、料理の嗜好に合わせて、いかに楽しい空間や時間を提供できるか、にある。今、逆風にあえぐ外食業界がやるべきことは、原点に返って一つひとつの店舗やメニューを見直すことかもしれない。
【釼 英雄】
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