「新空港はいらないと明言する」。短いが決然とした態度が伝わってくる。これが06年に行なわれた市長選挙で吉田宏福岡市長が掲げたマニフェストの記述である。しかし、市長就任以来、一度も空港問題に対する意思を表明することなく、福岡の将来を決める最大の懸案事項が知事の判断だけで決まった形となった。洞ヶ峠を決め込んだ市長は、明らかに「公約違反」をおかしたことになる。
20日、海上空港を新設するか現空港の増設かで注目されていた福岡空港問題で、麻生渡知事が「増設支持」を明らかにした。正式表明は26日の県議会最終日となるが、方向性が決まったことで市長の出番は完全になくなった。空港問題は福岡市民にとっても大きな問題だっただけに、全てを知事の判断に委ね、リーダーシップを欠いた市長に落胆の声が広がる。
しかし、問題にすべきは、またしても公約を果たさなかった市長の政治責任である。人工島事業の見直し・こども病院人工島移転白紙・見直し、留守家庭子ども会の無料化、市立保育所民営化中止、そして新空港否定の明言などなど、市長が選挙時に約束した重要施策や市政の方向付けは全て反故にされた。人工島やこども病院について「見直しは行なった」と言い訳するだろうが、それは有権者には通用しない。大型開発を批判し、わざわざ選挙の第一声を人工島に選んだのは他ならぬ吉田市長自身なのだ。さらに今、市長が選挙時に訴えた内容や数々の印刷物を確認しても、山崎前市政を180度転換させる候補者を演出していたことは明白である。人工島や須崎に代表される大型開発は「身の丈」に合わないとして「負の連鎖は断ち切らなければいけない」と演説したことを忘れたとは言わせない。
留守家庭子ども会の無料化や市立保育所民営化の中止については、関係者へ説得する努力さえ見せようとしなかった。全て役人任せである。定例会見では、公約違反について候補者の時と市長になってからでは状況が違うと平然と言い放った。吉田市長の選挙公約は、票目当てのおためごかしだったということだ。政治家としては最低ということになる。市民から「山崎(前市長)さんの方がましだった」という声が聞こえてくるのも当然だろう。
市長は民主党の単独推薦を受けて当選した。もちろん同党の主張に共感したからこそ推薦候補になったのだろう。推薦依頼の文書を出して推薦料まで受け取ったのだから、「頼んだわけではない」との言い分も通用しない。その民主党は新空港には反対の意思表示を示してきた。しかし、吉田市長は今日まで「新空港はいらないと明言する」とした自身の公約さえ守ろうとしなかった。民主党との決別であり、有権者への裏切りである。
福岡市政史上、これほど平然と「公約」を破る市長は存在しなかったのではないだろうか。これは十分「不信任」に値する。こども病院問題をはじめ市民の声に応えることができない市議会はさておき、市長に「NO」を突きつける方策を考えるべきであろう。「市政の空白」はできる限り短い方がいい。
【市政取材班】
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