◆麻生のもう一つの狙い
麻生首相は、小沢氏の公設秘書逮捕で「3つの危機」を一気にしのいだ。
正面から政権交代を迫る「前門の虎」の小沢氏に致命的なダメージを与えると同時に、2兆円定額給付金をめぐる小泉純一郎・元首相の造反という「後門の狼」の追撃を無力化した。
しかし、最も大きいのは、与謝野馨・財務相を擁立しようという自民党の“麻生おろし”の動きを封じ込めたことだろう。
自民党内では、ポスト麻生としていまや財務相と金融担当相、経済財政相の3つの大臣を兼ねる与謝野馨氏が急浮上し、予算成立後の4月にも麻生首相を退陣させて与謝野氏に「禅譲」させる動きが水面下で進んでいた。
「与謝野氏は小沢氏と囲碁仲間として太いパイプがある。麻生のままでは追加補正を成立させるのは不可能だが、与謝野首相なら、民主党を抱き込んで大型の景気対策を組み、その後、話し合い解散という選択が可能になる」(与謝野側近)
ところが、今回の捜査でその与謝野氏の「小沢パイプ」は価値を持たなくなった。
麻生首相は野党の「政敵」だけでなく、自民党内の「最大のライバル」も事実上、身動きできなくしたのである。まさに「一石三鳥」。望外の効果といえよう。
それでも、自民党が選挙に勝てるといえるまでの展望はないものの、就任以来、有効なカードを一つも持つことができなかった麻生首相にとって、初めて得た解散のタイミングであることは間違いない。
麻生支持派の閣僚たちの間では、「早期解散論」が台頭している。
「小沢の徹底抗戦はもっけの幸い。民主党が小沢を辞任させて態勢を組みなおす前に、解散・総選挙を打つべきだ」
国会では定額給付金法案が成立し、念願の選挙対策費「2兆円」を手にした公明党も同じだ。
「時間をおけば、手負いとなった小沢民主党は、必ず、矢野絢也・元公明党委員長の参院での参考人招致でわが党の政教一致批判を強め、太田代表の東京12区にも強力な対立候補を立ててくる。そうなる前に、総選挙を打つしかない」(幹部)
しかし、肝心の麻生首相は決断しかねている。側近は言う。
「いずれにしても選挙はよくて接戦。客観的に見て、麻生政権が総選挙後に続く可能性は万が一にもない。解散のフリーハンドを得たと思い込んだ麻生さんは、追加景気対策を成立させてから解散・総選挙だと延命に色気を見せ始めた」
そうなると、この国の政治は経済危機のなか、「国民不在」の権力闘争をまだまだ続けることになる。