常に他社に先んじた判断と動きが収益力に
為替相場も一転円安に振れ、対ドルレートで87円前後、4月1日は99円台まで円安に振れたため、合板市況が反発した。こうした相場の反転に対応し、同社は在庫の買い増しに出動。しかし、190万USドル分の買い付け予定に対し、60万USドル分を確保するのがやっとであったという。
それでも「同業他社に先んじて評価損を出してでも損切りを急ぎ、底値近くで大きく買いを入れられるのか。今回は反発前に売り急ぎ過ぎたのではないですか」と聞くと、「あの場面で売りに転じていなければ、取引先が他社から仕入れてしまう。当社が売ろうとした時には取引先の在庫は満杯になり、相場下落のスピードについていけなかっただろう」という。
川井田社長は市況の見通しについて、産地情報、中国・アジアを含めた建築需要動向、為替相場(対ドルレートだけでなく、現地通貨市況、現地経済動向等)についての情報を商社、証券会社を含めた金融機関等から取材して経営に役立てている。合板輸入は、商社を介さずに自社による全量直輸入であるため、リスクをヘッジできない分だけ確かな情報を得て判断する能力が必要なのだ。
また、同業他社との決定的な差を生み出す背景となっているのは、保税倉庫を自社工場に隣接して設けている点であろう。
輸入した商品は陸揚げし、保税倉庫へ搬入して通関検査を受ける。この際の海上運賃は、CIF(運賃・保険料込み条件)の場合、輸出業者負担になる。つまり高千穂(株)は自社倉庫までの運賃を輸出業者が負担することになるのだ。また、自社工場の構内であるため、通関業務は当日加工する分量だけをその都度検品してもらえばよく、総量一括検品に比べて在庫に関わる負担が小さくなる。このあたりが商社等の中間流通業者を通じて仕入れ販売している同業他社との決定的な競争力(収益力)の差となっている。また、工場の加工ラインについても、生産性が上がるように川井田社長が考案し作り変えている。
豊富な情報網を活かした状況対応と競争力維持
同社のもう一つの強みは不動産部門にある。
川井田社長は、少子高齢化に伴う住宅・建築業界の縮小傾向に起因した合板消費量の減少をにらみ、高収益を背景に財務体質の強化に努めてきた。
その自己資本比率の高さと財務内容を背景にした信用力で、バブル崩壊後の最安値をつける不動産購入やダイハツ九州の社員寮向けマンション新築事業へ乗り出した。
本業の塗装合板事業はほとんど無借金であるが、新規に始めた不動産事業が借入金の大半を占める。しかし、この部門での賃貸料収入が合板事業を含む全従業員の給料(人件費)、減価償却費等の販管費や支払利息、借入金返済等のすべての経費を賄っておつりがくる。こうして、市況変動幅が大きい合板加工事業部門に比べて収益安定性がある部門に育て上げた。
昨年末からの急激な市況悪化をにらんで損切りに踏み切り、それ以上の評価損を未然に防ぎえたのも、こういった安定収益部門を持つことによる。
川井田社長の豊富な情報網を活かした相場観とコスト競争力、さらに、台板のトンネル(抜け芯)やオーバーラップ(芯重なり)を分別して不良品発生を防ぐ品質管理装置の設置など、常に競争力維持への努力を怠らない。
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