海に背を向けた施設立地
佐藤
東の箱崎周辺などは昔、海とつながっていたはずです。すぐそこは海で、漁港があり、砂浜ではなく岸壁でしたが、夏場はその岸壁の上におじさんたちがステテコ姿で将棋を指したり、子どもたちが釣りをしたりしていたものです。埋め立てによって生活と海とが引き離されてしまったのでしょう。特に埠頭地区は関係車両以外の進入が禁止になってしまいましたから、完全に生活圏ではなくなってしまいました。それから、埋め立て前の百道中学校は、校庭が松原を経て、そのまま砂浜につながっていました。塀もなにもなかったですから、本当に海に近かったですよね。
森岡
福岡サンパレスや福岡国際センターなど、施設の造りかたにも問題があります。これらの施設には大相撲などのイベントやコンサートなどで多くの市民が集まっていますが、施設が海に背を向けてしまっているため、せっかく海に近いのに市民はそれを感じることができません。例えば海側に出入口をつくれば、ベイサイドプレイス博多ふ頭まですぐです。相撲やコンサートが終わって、じゃあ食事でも、というときに、海側に出ることができれば、ベイサイドプレイスにも賑わいがうまれ、経営不振から脱することができるかもしれません。志賀島や西戸崎方面への渡船も、今はそこに住む人たちのための天神方面への通勤の足としての機能が大半ですが、レジャーに行くという人も増えるのではないでしょうか。
武谷
その築港本町あたりは、博多タワーもありますが、私たちが子どものころはけっこう賑やかでした。ただ、交通アクセスが悪いですね。昔はそれでも我慢して行っていたのですが、天神など都心部の魅力が増してくるに従って、人が行かなくなったということではないでしょうか。西鉄の路面電車が廃止されたことの影響が大きかったのかもしれませんね。
高速道が海と街を分断
佐藤
以前、私どもの事務所が築港本町にあった頃、週末になると外国人とすれ違うことがよくありました。これは想像ですが、地図を見て「ベイサイドプレイス」と書いてあると、外国の人々は、そこには魚市場があったり、おしゃれなシーフードレストランがあったり、ショッピングやイベントを楽しめる何かがあるに違いない、と期待して、行ってみたら、がっかりされてしまっていたのではないでしょうか。
森岡
もうひとつの要因は都市高速道路の構造ではないでしょうか。あの大きな構造物は、海と街とを完全に切り離してしまったようです。建設時点では、ひとつの方向性だったのかもしれませんが、大きな後遺症が残ったことは間違いありません。また、博多湾沿岸には、オーシャンビューを売りにしたマンションなどが多く建っていて、そこに住む人にとっては良い眺めなのかもしれませんが、海から見ると景観をぶち壊しにしているようなケースも少なくありません。
住吉
ただ、シーサイドももち地区は高速道路を低くして、邪魔にならない高さになっていますよね。
佐藤
ももちはいろいろな議論があって、折衷案で結局いまのような形になり、人が海に行きやすくなりました。サンフランシスコでは港湾地区の手前で高速道路が切断面を見せてぷっつりと切れていますよね。あれは港湾地区の景観を守るために工事を中止したのですが、それは1970年代のことだったと記憶しています。シアトルも海岸線の都市部の高速道路は地下に潜っています。そうしてみると高速道路について日本の行政は、はるかに遅れているということなのでしょうか。
住吉
高速道路が岸壁沿いを走っている地域といえば、東京湾の竹島桟橋がありますね。そこは倉庫街と港で、倉庫を開放してディスコやレストランをつくって、人の流れを海の方に呼び込んだケースですね。
佐藤
ベネチアでは、世界的な建築の博覧会「ビエンナーレ」の会場が倉庫群なんですね。福岡で言えば中央ふ頭の倉庫群が全部会場になるというイメージで、世界中の建築家がプロジェクトの巨大な模型や図面を出展します。それだけで世界の建築家があこがれる場所になっています。大きな施設をつくる必要はないですね。
森岡
横浜の「トリエンナーレ」も倉庫群を上手に使っていますね。元々しっかり造ってある建物があると、さまざまな利用ができるということです。倉庫にしか使えない造りだと難しいのかもしれませんが。
つづく
※記事へのご意見はこちら