アパレルの名門、レナウン(東京都品川区、中村実社長)が揺れている。新体制に移行してからわずか1年。中村社長ら5人の取締役が総退陣を表明した。後任社長に起用する経営企画部長をはじめ、40歳代にバトンタッチとなる。異例なトップ人事は、経営参画を仕掛けてきた投資ファンドに対する捨て身の反撃である。
<経営陣総退陣を逆提案>
発端は4月1日。レナウンの発行済み株式の24.87%を保有する筆頭株主のSPICA2号投資事業組合(東京都港区、藤澤信義・業務執行組合員)が、関係者3人を取締役にするよう株式提案を行なった。
SPICAは、消費者ローン会社ネオラインキャピタル(旧かざかファイナンス、東京都港区、千葉信育社長)が組成した投資ファンド。ネオラインは2008年9月、投資会社のカレイド・ホールディングス(東京都港区)からレナウン株19%を譲り受け筆頭株主になった。株主総会に向けて役員派遣を求めたのだ。
これに対してレナウンは4月15日、株式提案に反対を表明。大胆な人事刷新を打ち出した。中村実社長(58)ら5人の取締役全員が退任。後任社長候補に北畑稔・経営企画部長(47)を選んだほか、40代の執行役員2人を取締役に昇格した。社外取締役2人も招く。
経営陣の総入れ替えを逆提案し、ネオライン側の動きを牽制し、経営の主導権を確保しようとするのが狙いである。ネオラインが株主提案を取り下げない限り、5月28日の定時株主総会に向けての両者の駆け引きが火花を散らすことになる。
<ライブドアと産業再生機構>
レナウン争奪戦は、旧ライブドアOBと旧産業再生機構OBの対決の様相だ。
ネオラインの前身はライブドアクレジット。レナウンの買収を仕掛けた藤澤信義氏(39)は東京大学医学部卒業のキャリアをもつ変り種で、ライブドアクレジットの社長を務めていた。ライブドアの解体後、社名をかざかファイナンスに変更、国内最大の買収ファンド、アドバンテッジパートナーズ(笹沼泰助共同代表)の傘下に入った。
社名を再度改めたネオラインは08年10月、貸金業法改正後、上場消費者金融として初めて民事再生法を申請したクレディア(静岡市)のスポンサーになった。
ネオラインがレナウンに取締役派遣を求めたのは、藤澤氏のほか日本振興銀行会長の木村剛氏(46)とネオラインキャピタル事業開発担当の佐谷聡太氏(52)の3人。
木村氏は日銀の出身で、竹中平蔵・金融担当相のブレーンとしてメガバンクの不良債権を半減させる「竹中プラン」を作成した中心人物で、ネオラインがクレディア再建で手を組んだのが木村氏の率いる日本振興銀行。佐谷氏は、ライブドアが買収したセシールの社長を務めた。いずれも、旧ライブドアに連なる人脈だ。
対抗するレナウンが軍師に招いたのが、旧産業再生機構OB。2人の社外取締役を招く。「ヴァンヂャケット」の創業者、故石津謙介氏の長男でデザイナーの石津洋介氏(74)と、産業再生機構の執行役員などを歴任した片山龍太郎氏(52)だ。
片山氏は、自民党の小泉チルドレン、片山さつき衆院議員(49)の夫として名が通る。家業であるマルマンを再建、上場させた後、産業再生機構執行役員マネージングディレクターに就任。カネボウなど難解な大型案件の再生を手掛けた。その後、前ニューヨーク市長であったルドルフ・ジュリアーニ氏の要請により、投資会社ジュリアーニ・パートナーズ日本法人の会長兼社長に就任。破綻したNOVA第三者委員会委員や、不祥事に揺れるラディア・ホールディングス(旧グッドウィル・グループ)の社外取締役に選任された。その手腕を買って、レナウンの社外取締役候補に白羽の矢が立ったのである。
藤澤氏と片山氏。ライブドアと産業再生機構のOBによる軍師対決が、レナウン争奪戦のもう一つの見どころだ。(つづく)
【日下淳】
*記事へのご意見はこちら