障害者団体への郵便料金割引制度(低料第3種)を悪用して、巨額の郵便料金支払いを免れたベスト電器(福岡市博多区)。そしてベスト電器に違法なダイレクトメール(DM)発送を持ちかけたとされる大手広告代理店「博報堂」の子会社「博報堂エルグ」。日本を代表する企業が犯した犯罪は、障害者団体をかたり福祉を食い物にしたあげく、消費者をも欺くものだった。しかし、ベスト電器側は「大手広告代理店」から提案を受けたと言い、博報堂側は法律違反との認識はなかったととぼける。しかし、ベスト・博報堂双方の言い訳は社会的には通用しない。
どう考えてもおかしな話である。第一、通常なら1通120円かかる郵便代金が最低8円になるなどという割引は、常識的に考えてあり得ない。弱者を守るための「障害者団体への割引制度」だからこそ可能な料金設定なのだ。さらに、差出人がベスト電器ではなく障害者団体であるということについては、違法性を疑うのが普通であり、ベスト側が「大手広告代理店」の言い分を郵便局に確認すれば、違反行為であることは分かったはず。だが、ベスト電器は取材に対し、今回問題となったDM広告の提案者が「大手広告代理店」であり、法令上の問題点はクリアしていると説明されたから大丈夫だと判断したという。しかし、それは責任転嫁に過ぎない。DMを受け取った人が、「低料第3種」の要件を満たしていないと抗議をしていたことが明らかになっているが、ベスト側はこの時も違法行為の有無について自ら郵便局への確認を行なっていない。違法性を指摘されながら無視したことは、「分かっていて続けた」ということに他ならない。ベスト電器の姿勢は、一部上場企業として失格であるばかりか、反社会的といっても過言ではあるまい。
一方、博報堂側も日本を代表する「大手広告代理店」として、お粗末としか言いようがない。子会社「博報堂エルグ」の執行役員が捜査当局の事情聴取に呼ばれ、逮捕された16日、当事者企業である博報堂エルグは「博報堂本社」に聞いてくれの一点張り。本社側もエルグに確認するまで事態を把握していなかった。危機管理については二流以下ということ。しかし、一番の問題は博報堂エルグが主導的立場で今回の違法行為を行なっていたことだろう。ベスト側に「低料第3種」の悪用を持ちかけたことは事実であるうえ、違法性の指摘を受けた後も平然と同じ手法でのDM発送を続けたのである。「確信犯」と見られても仕方がない。
博報堂本社のホームページには博報堂グループの「基本理念」が謳われている。そこには「本業を超えて、直接的に生活者や社会に対して果たしうる責任」「企業として果たさなければいけない基本的な義務と責任」などが同社のCSR(企業が社会的に果たすべき責任)だと記されている。今回の事件では、「本業を超えた」ことは事実のようだが、基本的義務や責任は何一つ果たしていない。「基本理念」の最後には「生活者や社会の中に幸せを生み、つなげ、ともに拡げていく。それは博報堂の社員にとって誇りであり、幸せでもある」とある。子会社がやったことは、福祉を食い物にする違法行為を「拡げた」だけで誰も幸せにはなっていない。「基本理念」はただの「謳い文句」だった。
【秋月】
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