「攻め」の麻生と「守勢」の小沢――政界の情勢は攻守逆転したかに見える。小沢一郎・民主党代表の政治資金問題という敵失で支持率が急回復している麻生首相は、総事業費56兆円という過去最大の景気対策を打ち出すと、「強い決意でやれ」と大型連休中も補正予算案を審議して早期成立を図るように指示した。
<「民主党つぶし」の景気対策>
「解散だ。総理は補正をあげたら勝負に出るつもりになっている」
官邸の指示を聞いた自民党国対の若手議員たちは浮き足立っている。
自民党内には早期解散を望む声が強い。
「中川昭一・前財務省の酩酊会見の時が最悪で地元を回っても支持者が話も聞いてくれなかったが、今は手ごたえがぐんとよくなった。すぐ総選挙をやれば自公で過半数に届く可能性がある。麻生内閣ができて唯一最大のチャンスではないか」(閣僚経験者)
麻生自民党は票集めのために景気対策でも露骨ともいえる手を打った。
整備新幹線など従来型の公共事業バラマキに加えて、環境対策を名目にエコカー購入に最大25万円の助成金を出すのをはじめ、薄型テレビ、冷蔵庫、エアコンという白物家電にもエコポイントで事実上の補助金をつけることで自動車、電機という日本の主力産業を味方に取り込んだことだ。早速、トヨタはハイブリット車「新型プリウス」の増産方針を決めた。
しかも、補正予算はまだ成立していないのに、政府はエコカーは4月10日登録、家電も5月15日購入分から前倒しでスタートさせる。
この政策には民主党つぶしの狙いも込められている。
自動車産業の労組「自動車総連」(組合員約74万人)と電機産業の労組「電機連合」(約63万人)は民主党の有力な支持基盤だけに、「民主党が補正予算に反対すれば、助成金をあてこんでエコカーなどを購入した層ばかりか、特需で雇用を維持できる労組の反発も買って選挙応援の足が止まる」(自民党政調幹部)という仕掛けなのだ。
連休明けに本格化する補正予算審議そのものが民主党には剣が峰になる。
<水面下で「反小沢クーデター」の萌芽>
一方の小沢氏は開き直ったかのように地方行脚を始めた。
「西松建設事件の捜査は代表本人には進まない」(小沢側近議員)と安心して巻き返しをはかろうというのだ。
民主党の連敗続きだった地方の首長選挙も、名古屋市長選での河村たかし氏の圧勝でようやく歯止めがかかり、同党は小沢氏のイラスト入りのマニフェストを200万枚印刷する準備を進めている。
まるで小沢体制のまま総選挙に突入する《強行突破》戦術に見える。
しかし、いくら「国策捜査だ」と検察を批判したところで、お詫びや釈明が必要な応援行脚で党に勢いがつくはずがない。最近では小沢支持派の議員の間にさえ疑心暗鬼が広がっている。
「無駄遣いをしない代表がそんなパンフを刷るというのは、辞任しなくても選挙に勝てると思いはじめている」
「小沢さんは代表のまま、解散と同時に発表する閣僚名簿で自分は総理にならないことを示すつもりではないか」
「代表交代を急ぐと麻生政権は次の代表にもかならずスキャンダルを仕掛けてくる。だから小沢さんは解散のギリギリまで手の内を明かさないつもりだ」
―といった見方が錯綜しているのだ。
【千早】
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