この党が「選挙に強い」という小沢神話で求心力を保ってきたことは間違いないし、百戦錬磨の小沢氏以外に、自民党という権力に立ち向かって政権を奪い取る迫力を持つ政治家は見当たらないのも事実だろう。
が、世論調査で小沢批判が強いにもかかわらず、これまで民主党内から《小沢降ろし》の動きが表面化しなかったのは、大半の議員が「政権交代に政治生命を賭けるといった小沢代表は、総選挙前のタイミングで必ず身を退いてくれる」との期待感と、「強引に代表更迭に動けば大事な時期に党が分裂して元も子もなくしかねない」という警戒感を感じているためだ。
その期待が崩れれば党内に大混乱が起きる。
次期代表候補に名前が挙がっている民主党中堅リーダーの一人は、
「いざ解散・総選挙となったときに小沢さんが辞めていなければ、衆院の9割、参院の5割が小沢おろしに動く」
と、不穏な言い方をするが、そんなことになれば総選挙での政権交代の可能性はまずないといっていい。
これまで小沢氏をかばってきた鳩山由紀夫・幹事長も、党内の空気を察して、「党の調査で小沢代表では選挙に勝てないという結論が出たら、抱き合い心中しても辞任させる」と言い出したのである。
<「辞めない小沢」の胸算用>
小沢氏が進退をはっきりさせないのは、戦略面より、後継者で迷っているというのが真相ではないか。
小沢氏が自発的に代表を退いた場合、当然、代表選挙が行なわれるが、党内の勢力からいえば左派と保守派ともに影響力を持つ小沢氏の推す候補が後継代表に就任する可能性が強い。
だが、民主党のトロイカ体制のうち、小沢氏の信頼が厚いとされる鳩山氏は「小沢代表とともに辞任」を明言しているし、次期代表に意欲をみせている菅直人・代表代行では「左派色が強く、選挙で保守票が逃げると党内をまとめきれない」(保守派+議員)との懸念がある。
そこで、小沢氏は“本命”とされる岡田克也・副代表に政治献金の全面禁止というマニフェストをまとめさせる役目を与えた。
民主党長老議員の解説だ。
「これは岡田さんの代表試験。世論の反応と自民党への反撃を考えたらここは強引でも献金即時禁止を打ち出すべきだ。小沢代表は岡田さんにその役目を与え、自らの政治とカネの疑惑にケジメをつけて事実上、代表を禅譲するシナリオを描いていた。ところが、原理主義者の岡田さんは、即時禁止は現実的ではないから5年後の禁止だと手ぬるいことをいっている。小沢さんは岡田さんのそのセンスでは総理の器ではないと迷いはじめたんだな」
民主党の次期代表はこれまでのような「野党党首」ではなく、次の総理になる可能性があるだけに、国民に政治手腕への安心感を持たれなければ、総選挙に勝つのは難しい。
偽メール事件で代表を辞任した前原誠司・副代表には党内の支持はほとんどない。年金追及で名をあげた長妻昭氏や馬淵澄夫氏、原口一博氏といった世代まで若返りをはかるには、総理になったときの政治手腕が未知数すぎる。
いずれも帯に短し襷に長しなのだ。小沢氏は辞任した方が総選挙勝利のためには有利とわかっていても、退くにひけなくなってきたのかもしれない。