それはのどかな茶所で起きていた
地方自治体において、正しい税金の使い方がなされるかどうかは、首長の能力で決まるといっても過言ではない。改革派と呼ばれる地方のリーダーたちは、概して公共事業や役所仕事の無駄を徹底して切り捨てる能力に長けている。もちろん業者の横紙破りなどにはびくともしないものだ。
ところが、何らかの理由で業者に頭が上がらない人物が行政のトップに立った場合、泣きを見るのは住民である。市民のための税金が、業界と権力者の保身のために費消されるからだ。国も地方も借金まみれの日本で、そうした図式は少なくなったとばかり思っていたが、そうではなかった。
公共事業に対する厳しい視線が注がれる中、よほどのことがない限り、業者が徒党を組んで(つまり談合してと言い換えてもよいが)行政の決めた方針に逆らうなどということはない。しかし、九州のある自治体では、市長が変わった途端、建設工事の予定価格が気にいらないと、自ら手を挙げたはずの一般競争入札を、業者が揃って辞退するといった仰天の事態が起きている。さらに驚くのは、毅然と対応すべき市長が、業者の言いなりに前市政の決定を覆し、事業に投入する税金の額を大幅に増やすという暴挙に及んだことだ。時代錯誤としか思えない、安っぽいテレビドラマの筋書き同然の事態が現実に起きている。舞台は日本茶の生産地として有名な福岡県八女市である。
市長村会館
福岡県八女市の「八女市町村会館」は、1972年(昭和47年)に建設された多目的ホールである。建築後30年以上を経て老朽化し、新たな対応が求められていたが、07年に野田国義・前八女市長が現在の建築物を利用するリファイン案を用いての同会館再生に着手する。リファイン案は大学教授らの提案を受けてのものだったという。
設計業者選定についてはプロポーザル方式を採用、複数の公募企業の中から選ばれた山下設計九州支社に基本設計・実施設計を委ねていたが、08年9月には基本設計が完了、八女市のホームページ上に「基本設計書」が公表される。
ここまでは順調に進んだが、昨年11月、野田市長(当時)が国政への転身を表明、次期総選挙に向けて福岡7区から民主党公認で立候補するとして市長を辞任する。不幸はここから始まったといえる。
野田氏の後任をめぐって八女市長選挙が行われるのだが、新市長に当選したのは長く県会議員を務めていた三田村統之氏である。そして、今回の暴挙の伏線は、実はこの八女市長選挙にあったと見られている。三田村氏は市長選挙中、市長村会館のリファイン案見直しを訴えていたのである。見直しとは即ち「新築」への変更だ。なぜ三田村氏が新築にこだわったのかについては特集の中でじっくりと検証していくことになる。
(つづく)
【特別取材班】
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