激変してこそ企業寿命を延ばすシリーズ
<3億以上の債務超過>
売上を過剰に積み上げていれば当然、収益の悪意操作があるはずだ。08年期において公然の当期利益は赤字8,525万6,000円、実体数字1億7,941万4,000円の赤字である。ここでも9,500万円の赤字隠しをやっていたのである。売上足らずもそうだが、総利益(粗利)が取れないのが泰平物産の致命傷であった。20億積み上げた虚偽の08年3月期において粗利は3.7%しかない。本物の数字でも4.6%しかないのだ。これでは飯が食えるはずがない。本社に隣接した賃貸マンションから家賃収入が取れていたときには、この低粗利をカバーできていた。しかし、手放して以降は悲惨な収益状況になった。
何故、こういう最悪の事態に陥ったのか。泰平物産の売上の構成は生コン、ビル用サッシ、基礎パイル、空調機器類であった。ビル用サッシは職人を抱えて受注を行なっていた。このサッシ工事部門では、以前はそこそこの利益を確保していたのだが、最近では5%を切る状況になってきた。また、仕事も大幅に減ってきた。基礎パイルの部門は、商社通しのマージンすら捻出できなくなった。そうなると、基礎工事業者が直接、請負することとなる。当然のこととして、この部門の売上も落ち込んだ。
となると、勢いのある生コン部門に頼ることになる。生コンの案件に関しては、常に営業権利を巡ってトラブルが発生する。そこで調停役である親分の竹原社長の出番だ。調停をして仕事を分ける。仮に5億円の生コンの仕事を受けたからといっても、マージン1.5%であれば750万円にしかならないのだ。さらに、生コンの取引には保証金を積まなければならない。同社の債権者名簿では、福岡生コンクリート協同組合が大口債権者になっていた。だが、最終的には保証金処理・保証人交渉で、組合は実害ゼロになるはずだ。
泰平物産の売上の60%を占めるまでになった生コン部門は、平均すると3%の粗利しかない。そして前述の取引制約を受ける。これでは儲かるはずがないどころか、動けば動くほど赤字になる。竹原社長は5年前に「九州の大手の建材商社の大半は潰れてしまった」と感慨深げに話していた。もうこの時点で、建材商社のビジネス存立基盤が粉砕されていたのである。厳しい言い方で失礼だが、「よく5年間も長生きできたものだ」と感服する。業界では「生存社、利益」という鉄則がある。残念ながら建材商社の業界では「生きながらえても恩恵なし。ただ座して死を待つのみ」という事実しかない。
貸借対照表を参照していただきたい。提示されてきた08年3月期においては、倒産の恐れを微塵も感じさせない。純資産の項目では、資本金3,000万円プラス利益準備金で2億8,422万4,000円。一見、健全に見える。ところが、本物の純資産の項目は3億1,626万7,000円の債務超過であることが判明した。「呆れた。開いた口が塞がらない」と、誰しもが異口同音に語るだろう。恐らく09年3月期を決算してみれば、6億以上の債務超過になっているはずだ。
このシリーズのテーマである『激変して企業寿命を延ばす』ことに挑戦するならば、「建材商社」の業態を捨てなければ生きられない。いずれ潰れる運命が待ち構えている。「中途半端であれば、しない方がまし」と助言しておく。
(つづく)
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