2.低価格生産の仕組み
それでは、なぜSPAが低価格と好調な売り上げを実現できるのか。もう少し詳しく解説しよう。
SPAとは「Specialty store retailer of Private label Apprel」を意味する。直訳すれば、独自で開発したブランドをもつ衣料品店ということである。1980年代から90年代にかけて世界的な産業構造の変化の中で、その方向性を示すようになった。
その引き金となったのは、米国の巨大百貨店同士の買収合戦だ。これが全米に波及すると、傘下の地方百貨店や専門店チェーンまで巻き込んだ再編劇に突入。さらにアパレル業界も百貨店からの返品と発注の遅れで、大混乱に陥った。
その結果、アパレルメーカーは小売業に頼らず、自分の売場で販売。小売業も郊外のSC(ショッピングセンター)に活路を求め、オリジナルブランドの店舗展開を図った。このビジネスモデルを体系づけたのが世界トップのカジュアルチェーン、ギャップである。
1985年、ギャップのダン・フィッシャー会長は株主総会で、SPA宣言を打ち立て新業態について次のような特徴を説明した。
(1)創造性とデザイン性に富む商品の開発
(2)自らのリスクで生産する
(3)価格決定権を持つ
(4)店頭はコーディネートして演出
(5)知識ある販売員が第一級のサービスを提供
の5つである。
◎安さを実現する生産・物流システム
ギャップ以上にファストファッションをシステム化したが、スペインのインディテックスだ。主要ブランドのザラは、一代でファッションから不動産、金融、カーディーラーまで展開したオルティガ氏の中核事業で、世界を代表するSPA業態になっている。
SPAというと企画生産や販売を自社で行ない、コストダウンによって低価格を実現するが、同社の場合はそんな単純なものではない。生産システムはトヨタ自動車が設計に関わった自社一貫方式で、大量購入の素材や糸を染める主要ラインを中心に、品種別に分けて自社と系列の工場で生産。流行や消費者の嗜好に合わせ、商品づくりの決定から店頭投入まで約1週間という、ジャストインタイムが特徴だ。
現在、このシステムによって6割以上が生産され、定番品は低コストのアジアや東欧諸国にアウトソーシングされている。また、世界各国の店舗はPOSシステムでつなげられ、商品は発注に応じて週2回、物流センターで仕分けられて、各店に配送されていく。
対するギャップやユニクロは、商品の企画から生産段階に力点を置き、シーズン前にローコストで大量に生産し、それを売り減らしていく方式。ザラのように流行や消費者の好みに合わせたシステムとは言えない。
在庫期間が長いため、流行や消費者の好みをはずせば、商品は売れない。TGCに出展するブランドが年15回以上回転するのに対し、ユニクロは6回程度。このシステムの成功は極めて例外的ではないだろうか。
【剱 英雄】
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