<意外でもなかった倒産ショック>
5月15日は、朝8時過ぎから忙しくなった。「高松組が事業停止したそうだ。現場がストップした。現場監督が全員引き揚げた。会社には『今日、15日の支払いできません』と張り紙がしてある」と様々な問い合わせが集中した。その裏付け取りに弊社情報担当者たちは奔走しててんてこ舞いになったが、倒産の事実は間違いなかった。高松組とは直接関係ない業者ほどびっくり仰天して、問い合わせの電話先で狼狽しているのがよくわかった。意外なほど取引先からは冷めた覚悟の声が漏れてきた。
もともと4月半ば頃から「高松組は6月5日にユニカの香椎浜の物件の建設代金が回収できずに資金がショートする」という風評が流れていた。しかし、この説に対しては取引のないところが騒ぎ立てているに過ぎない。密接な取引先には、高松組の大津常務が昨年末に告白していたそうだ。「最悪、ユニカが決済できない場合にはトステムファイナンスが決済することになりました」と。だから、この密接な関係先の幹部は、当初から「この倒産は高松社長の経営投げ出しによるものだ」と分析していた。
<80億円は切れない>
8日(金曜日)に高松社長と会った。「6月5日の決済の不安説が流れている。大丈夫か?」と質問した。「大丈夫だ。ユニカさんから香椎浜の物件の担保を貰うことになっているから、金融機関から融資が出る。資金調達の目途がついた」と自信満々の仕草を示した。「それならば、リストラ減量経営に乗り出す時期がきた。60億円規模の完工高体制への布石を打つ必要があろう。同業者は同様な改善策を実行し始めた」と勧告した。
ところが温厚な高松氏の顔が引き攣った。「80億円を割るような事態になれば、我が社は廻らなくなる。どうしても死守しなければならない」と抗弁した。要は80億円の売り上げ規模を割ったら、資金がショートすることになるということ。裏を返すと「それだけ累積赤字を隠しているのか」と憶測されるのである。確かに09年に入って、高松組のダンピング受注は業界で話題になっていた。3月末までには物件の引き渡しが済む。次の新規の仕込みに追われる。昨今の市況では仕事がない。勢い安値受注しか方策がなくなったのである。
あまりの安い受注に、高松組を支えていた協力会から離反する会社も現れてきた。その悪影響で工事に着手できない事態も生じている。高松組の下請け会で一番忠誠心があると見られていた会社経営者の捨て台詞が印象に残った。「あー、あの物件のことか。安い、あまりにも安く取りすぎている。うちは価格競争に強いという自負があるが、あの単価では赤字になるので手を引いた。公にはできなかったが、内心ではいつか蹉跌を踏むと読んでいた。高松さんも先の見通しが分かっていた(累積圧迫でいずれは破綻する事態の想定)から、早々と投げ出したのではないかと睨んでいる」と喝破した。
身内は全貌をよーく把握している。『粘りのない倒産』と批判するのは簡単であるが、1年前の08年3月期には完工高100億円に達していたのだ、こう脆くも企業は潰れるものなのだろうか。儚いものだ。だが、同じマンション依存で工事を進展していた同業者でも、方向転換に成功した例もあるのだが――。
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