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コダマの核心

泰平物産、お前もか!! ─ 建材商社消滅の時代(8)
コダマの核心
2009年5月19日 08:00

激変してこそ企業寿命を延ばすシリーズ

 (1)売掛金、(2)受取手形、(3)割引手形を点検しつつ確信した。「泰平物産の売上構成の依存度は、生コンに偏っている。儲からない(1.5%~3.0%のマージン)ことをしていればいずれ採算割れで倒産するのは時間の問題だった」ということだ。シリーズ②で触れたように、生コン以外にもサッシ、基礎パイルというバランスある売上構成があったと見られていた。だが、大半は生コン売りで占められている。この傾向がいつの段階から顕著になったかは定かではないが、背景は理解できる(関係者の証言から推測するに「5年前から」が妥当であろう)。
 泰平物産は売上足らずで資金が切迫していた。生コンビジネスは同業者間での貸し借りに融通が利く。例えばAとBの物件があるとする。二社間で上下の貸し借りの関係を了承し合うと売上が2現場分、計上できることになる。そうなれば回収手形が増えて割引に回すことができ、当面の資金運営でのつじつまを合わせるメリットが生じる。ただし、赤字が膨らむ現実から目を逸らす習性に慣れる必要がある。慣れれば怖いものなし。泰平物産の営業のターゲットは生コン一本に絞り込まれていったのだ。
 売掛金にはスーパーゼネコンの名前があり、回収手形・割引手形にはなかったその謎は?
 泰平物産には、売掛金の回収期間を待つ余裕がない。売上先としてはスーパーゼネコンがあるが、回収期間を圧縮するためにその売掛債権を転売する。そして速やかに転売先の手形を貰って、資金繰りに補填する。このような資金運営を、専門用語で「商社金融依存の繰り回し」という。昔はこのような資金繰りはよくお目にかかったが、最近では珍しい。同社は時代の遺物の資金管理をしていたのか!! スーパーゼネコンの名前が消えたのは釈然としない。泰平物産の売上先から、大手建設会社がなくなることは考えられないからだ。何かのやましい資金操作が水面下でなされていたのだろう。

<麻生セメントの有力代理店>

 福岡県のセメント業界の流通シェアは、全国比較でも非常に特性がある。麻生セメント(現・麻生ラファージュセメント)のお膝元である。福岡県における同社の比重はとてつもなく高かった。それだけ強力な販売網を築いていたのだ。泰平物産も当然のように麻生セメントの代理店の一翼に参画した。一昔前は、重鎮の代理店がきら星のごとく集まっていた。ところが村上建材店を筆頭に倒産が相次いだ。建材商社の破綻は、時代の趨勢となったのである。
 重鎮の淘汰のなかで、麻生セメントの代理店のなかでは泰平物産は際立った存在になっていった。とくに竹原社長の豪腕・調整能力には一目置かれる存在と化していったのだ。建設業界では、受注を巡る対立・軋轢が必ず起きる。少なくとも福岡県、福岡都市圏では麻生セメントの面子でも調整する必要がある。この仲介役を竹原社長が買って出た。麻生セメント側として、利用価値がある貴重な代理店が泰平物産であったのだ。だからこそ、同社の倒産によってもたらされた影響は、麻生セメント含めた関連会社の焦げ付き被害よりも、代理店のネットワークに穴が開けられた打撃のほうがはるかに致命的になっている。
 冷静に見守ると泰平物産の破綻はやはり、建材商社消滅の時代の流れの一ドラマであることに過ぎない。「竹原社長の辣腕で、まぁよくここまで企業寿命を延ばしたものだ」と感服する。東区青葉にある社長宅に取材に訪れた。平屋の質素な自宅である。ブザーを押すと、3分ほどして妻女の声が聞かれた。「主人はいません」という返事であった。自宅に潜伏しているのか、病院に入院しているのかは、もう関心は蚊帳の外だ。
 竹原社長のような豪放磊落な古武将タイプの経営者は、建材商社の世界にはもう出現しないであろう。

(つづく)

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