それぞれの保護者の意識はどうあれ、保育所の支援なしには生活や子育てが立ち行かない家庭も少なくない。また、一部の子どもたちにとって保育所が「命を守る最後の砦」であることも間違いない。そうした現状も踏まえ、待機児童問題に対して、さすがの福岡市も無策だったわけではない。地域の実情に応じて新設園を設けたり、既存の施設の定員を増やしたり、小学校の空き教室などを活用したサテライト型施設(分園)を設置したりするなど、特に0、1、2才を受け入れる様々な施策を打ち出してきた。
一方、在所中の保護者への便宜も図ってきた。たとえば、育児休業中も所定の手続きを取れば一定期間、継続入所ができるようにした。子育て経験者や我が子が実際に待機児童になっている一部の市関係者からは、「待機児童解消に逆行するのでは」と疑問も呈されたが、支援を訴える市民の声が大きく後押しした。経済支援としては、保育料の多子軽減(きょうだい児減免)や第3子優遇事業も実施している。
市民の様々なニーズに応える一方で、待機児童数は膨れ上がり、前出のようにきょうだい児が別々の園に通わざるを得ない皮肉な状況も生まれている。市保育課では、「今後も現状に応じて適切に対処したい」と話す。少子化をにらみ、新たな施設の設置は最小限に抑え、既存施設の活用を進めていく考えだ。
記者自身も5年程前まで認可保育園を利用させてもらった。当時に比べていまの支援内容は格段に充実している。確かに入所しにくくなった面はあるが、いったん入所してしまえば、滅多なことがない限り退所を迫られることはない。それだけでも安心して仕事や子育てができる。
ちなみに当時は、育児休業に入ると、入所中の子どもは退所するのが園と保護者の暗黙の了解であった(例外もあり)。市に言わせれば、「そんな『決まり』は今も昔もありません。退園を迫ったとすれば、施設側の理解不足です」ということだが、実際、育休期間だけ幼稚園に預けたり、その後の妊娠、出産を踏みとどまったりした知人は1人や2人ではなかった。逆に「育休の人が出て、やっと入れました」と言って入園してくる親子だっていた。いまのように手厚いサポートが受けられるなら、アラフォーの私だって、いまからもう一人、二人、産みたい気にもなる。
イヤミはさておき、市の決めた施策を実践するのは各園である。園の負担もさることながら、子どもたちに及ぶしわ寄せの大きさは想像を絶する。次回は、
待機児童対策が単なる数合わせになっている実態をお伝えしたい。
【山本 かほり】
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