西区のいくつかの認可保育園では、園バスを導入している。保護者の通勤前後の負担軽減や、運転免許を持っていないなどで送迎が困難なケースに配慮したものだ。いずれにせよ保護者が送迎できないほど、自宅と園が離れているということである。
中には、早朝7時過ぎにバスに乗り込み、8時半ごろ園に到着するという子どももいる。また、バスに乗り込んでから持参したパンをかじり、途中のコンビニでトイレ、という生活パターンの子もいるという。まるでくたびれたサラリーマンのごとく、バスの乗車時間が貴重な睡眠タイムになっている子も多い。園長の1人はこう語気を強める。「子どもの負担を考えると、バスは長くても1時間以内の運行が望ましい。しかし、保護者が希望する送迎時間帯はだいたい同じですし、台数に余裕があるわけでもありません。私たちもその中で最大限の努力をしています。子育て支援は確かに大切です。でも、子どもたちの犠牲の上に成り立つ子育て支援なんてありえません」。
もうお察しだろう。これらの園に共通する特徴は、都市部から離れていて、他校区からたくさんの待機児童を受け入れていること。子育て世帯の減少や少子化に伴い、地元の子どもたちは園児のわずか2~5割という。園バス運行は、過疎地域にある園存続と校区外の待機児童を受け入れるための最終手段といっても過言ではない。市のいう「既存施設の有効活用」とは、つまり、こういうことでもあるのだ。
別の問題もある。園関係者は次のように指摘する。「ほとんどの保護者は園の取り組みを理解してくれています。しかし中には、子どもに掃除当番させることを「けしからん」と申し入れてくる保護者もいます。子ども同士でおもちゃを取り合っているという状況を知ると、「寄付するので、子どもの数だけ同じおもちゃをそろえて欲しい」という保護者もいます。他校区の待機児童を受け入れるようになって、そういうケースが多くなってきた印象があります」。
「ちょっと不便だけど、認可保育園に受け入れてもらえて助かった」という
保護者も多い反面、「近くの園に入れず、仕方なく行かせている」「来てやっている」という心持ちの保護者もいるだろう。生活圏と離れていれば、どうしても園への愛着は湧きにくい。保育士や保護者同士の交流が少ないために信頼関係も築きにくく、ちょっとした不満が必要以上に大きくなってしまうことも考えられる。本来の入所希望園のうわさを聞くにつけ、我が子の通う園と比べてうらやましくも思うだろう。
断っておくが、私は、いわゆるモンスターペアレントを擁護しているのではない。ただ、そのような環境下で子どもが豊かに育つはずはないと強く感じている。問題は非常に根深いが、単なる数合わせの待機児童解消対策が、子どもたちの心と体にどれほど大きな影響を及ぼしているか、行政関係者にも保護者諸氏にも今一度、考え直して欲しいと思っている。
【山本 かほり】
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