証券市場の注目銘柄はカード大手のクレディセゾン(東京・豊島区、林野宏社長)。クレディセゾンが発行済み株式の約4割を保有する東証1部上場の不動産会社、アトリウム(東京・千代田区、高橋剛毅社長)の事実上の経営破綻がクレディを追い詰めた。今後、クレディの「みずほ化」が一段と強まることになる。
大赤字に転落
09年3月期の決算発表がピークを迎えた5月15日に行ったクレディセゾン(以下クレディ)の発表は苦肉の策。2010年3月期の連結最終損益が170億円の黒字になりそうだという予想を前面に打ち出した。しかも、09年3月期の年間配当は30円と、前の期比2円の増。増配は大赤字による信用不安を打ち消す狙いがある。
同時に発表した09年3月期連結決算の最終損益は555億円の大赤字。09年1月時点では235億円の黒字を予想していたのにだ。連結子会社のアトリウムの09年2月の連結決算が1,028億円の税引き後赤字になるのが響いた。
アトリウムは09年2月末時点で550億円(連結)の債務超過となった。クレディは09年3月期決算でアトリウム関連の特別損失904億円を計上。その結果、クレディは大赤字に転落したのである。
アトリウムは79年、競売物件買い取りの社内ベンチャーとして発足。競売物件を落札し、占有者の立ち退き・リフォーム後に再販売する事業だ。競売物件屋でしかなかった同社が東証1部上場に急成長する原動力になったのは、04年に始めた不動産融資保証事業だ。
不動産を購入する企業が金融機関から融資を受ける際、アトリウムが債務保証をする。当時、外資系・国内系が競い合って土地を買い漁ったファンドバブルの時代。アトリウムの保証事業は地上げ業者に大歓迎され、保証残高は2年半で約2,000億円に達した。
だが、07年夏の米サブプライムローン問題が表面化。外資系ファンドが資金パイプを絞ったことから不動産業界の環境は一変。08年に入り、資金繰りが悪化した不動産会社の倒産が続出した。
不動産会社が返済不能に陥り、アトリウムは保証債務の代位弁済が急増。しかも担保不動産の売却もできず、瞬く間に損失が膨れ、債務超過に転落したのである。
子会社を丸抱え救済
その事態に、親会社のクレディはどう対応したか。クレディは3月25日、アトリウムを完全子会社化すると発表した。
アトリウムのクレディ向け有利子負債は約1,900億円。このうち594億円分のDES(債務の株式化)で、有利子負債を削減すると同時に、アトリウムが実施する600億円の第三者割当増資の引き受けと株式交換により、8月までに出資比率を100%に引き上げ完全子会社化する。アトリウムは7月28日付で上場廃止になる。
さらに、クレディ以外の債務約1,237億円については、クレディに付け替えて、債務を一本化する。アトリウムは融資保証業務からは撤退。アトリウムの高橋剛毅社長は引責辞任、5月28日の株主総会後にクレディの宮内秀機専務が社長に就任する--といった内容だ。
クレディは、アトリウムの負の遺産を丸ごと引き継いだのである。クレディの前川輝之副社長は会見の席上、「両社(クレディとアトリウム)の債権者が同じということもあり、(法的整理などを選択するよりも)支援した方が得策と判断した」と苦しい弁明を行っている。
後腐れを断つためには、一時的に巨額損失を計上しても、アトリウムを整理した方が望ましいのはいうまでもない。にもかかわらず、アトリウムを丸抱えしたのは、クレディにアトリウムを法的整理させるだけの体力がなかったためだ。クレディは危険水域に入ったとして、信用不安が高まったのである。
(つづく)
【日下淳】
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