子育て支援という美名の下、“置いてけぼり”になった子どもがどんな思いで親を求めているか、皆さんは想像がつくだろうか?
ある保育園で取材していたときのこと。4才児の男児が39度近い発熱があると担任から園長に知らせがあった。取材はすぐさま中断。園長は保護者に緊急連絡した。「は?はあ?・・・。給食を食べさせてから、ですか?・・」。園長のため息まじりの呟きから、保護者の要求は手に取るようにわかった。電話を切った後、医務室で横たわる子どもの頭をなでながら、やさしく話しかけた。「もうすぐママが迎えに来てくれるからね。給食食べて、元気つけとこうね」。
別の園ではこんな情景に出くわした。クラスの子どもたちが外で遊んでいるのに、部屋の隅に敷かれた布団で寝ていた女の子。「どうしたの?」と尋ねると、「熱が出ちゃった」。付き添っていた保育士は、本人に聞こえないようにささやいた。「『お母さんに電話しようね』というと、『ママはきょう大事なお仕事をしているから、電話しないで』と。私はすぐ良くなるからって言うんです」。そうはいっても園は保護者に連絡している。しかし、「親が大変なときにこそ、支援するのがあなたたちの仕事でしょ」と言い放ったという。
一方、ある幼稚園での、男児と記者との会話。
記者「きょうは保育園で何して遊ぶと?」
男児「お友達と外でいっぱい遊ぶ」
記者「おうちでも外で遊ぶと?」
男児「おうちではゲーム。騒いだらママが怒る」
記者「ゲーム、いっぱいするの?」
男児「ママとお約束した時間だけ。でも、ママがメールしたりお電話したり、うるさくしたらいかん時間は、ゲームしていいことになってる」
記者「そっか~。お外でいっぱい遊べるといいね」
男児「ママのお迎えはいつも5時半。おうちに帰っても、もうお外では遊べんと。○○クラブ(同園の預かり保育(※2)の愛称)で遊ぶ」
記者「ママ、お仕事が忙しいんやね」
男児「お仕事?してないよ」
表現のおぼつかないところもあるが、どの子も精一杯、寂しさを抑えようとしている様子がうかがえる。保護者への思いやりはあふれんばかりだ。この気持ちを保護者はどう受け止めているのか。
子育てしながら働いている同じ母親として、子どもが病気になっても職場を抜け出せない事情はよくわかる。胸をかきむしられる思いで、仕事をしているだろう。これはこれで社会構造的な問題も大きい。しかし、もしもあなたが急病や不意の事故で身動きできないときに、家族が誰一人駆けつけてくれなかったら、どう感じるだろう?このことは、立場に関係なくあらゆる人に想像してもらいたい。まさに、家族への信頼感を失ってしまうのではないだろうか?
特にこの時期の子どもたちにとって、親や保育者など身近な大人との信頼関係の構築ほど大切なものはない。
こうした状況を「病児保育」(※2)を含む医療の現場から見てきたベテラン医師の言葉が印象的だ。「子どもは良くも悪くも育てたように育ちます。思いやりの深い子になって欲しい、優しい子に育って欲しい、と願うばかりでは形になりません。保護者が思いやり深く、優しく接しなくては、子どもには「思
いやり」も「優しさ」も伝わらないのです」
【山本かほり】
※1 預かり保育・・・通常の幼稚園の保育が終了したあと、そのまま幼稚園でお子様をお預かりして夕方まで保育を行う有料の保育事業。現在、福岡市にある私立幼稚園の119園が「預かり保育」を実施。(福岡市私立幼稚園連盟HPより)
※2 乳幼児健康支援一時預かり事業(病児・病後児保育事業)・・・病気回復期の子どもの養育が、保護者の勤務等の都合により家庭で困難な場合、所定の医療施設で一時保育するもの。現在、福岡市では小児科医院などを中心に各区に数箇所ずつ、計11箇所の病児デイケアルームが設けられている。(福岡市HPより)
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