創業者のシャイ・アガシ氏は独ソフトウェア会社SAPのプロダクト&テクノロジーグループの社長を務めた後、ベンチャーキャピタルからの出資を仰いでベタープレイス社を設立した。ガソリンスタンドのような電池の充電所を設けて、充電したり電池を交換したりして走行距離の限界(160㎞)を伸ばそうという考えだ。
これに早速目をつけたのがイスラエルなのだという。国土の狭いイスラエルでは、車の所有者のうち90%の人々が一日につき70㎞程度しか走らせず、主要都市間の距離が150㎞程度のため、電気自動車の普及にはもってこいなのだそうだ。ガソリン車の燃料となる原油が、周辺のアラブ諸国やロシアなどでしか産出しないため、エネルギー安全保障上、電気自動車に着目したのかもしれない。イスラエル政府とベタープレイス社は現在、電気自動車のインフラ構築に向けて協定を締結。2010年までに国内に10万以上の充電スタンドを展開する計画だ。
ベタープレイス社のビジネスモデルがユニークなのは、電池は同社が所有し、電気自動車のユーザーに貸与する仕組みをとることだ。ユーザーから得る月々のリース料がベタープレイス社の収入になる。時計やラジカセのように簡単に電池が取り外せるような、電池の着脱可能な電気自動車の開発も進めており、ドライバーが充電スタンドに立ち寄ると、あらかじめ充電済みの電池と交換してもらう仕組みも考えている。
<進むパラダイムシフト、日本勢への薄日となるか>
遅ればせながら電池の開発に参入しようという企業も増えている。かつて小型二次電池部門を三洋電機に売却した東芝は、自動車用の電池開発に再び力を入れている。巨額赤字を計上する日立製作所も、遅まきながら自動車向けのリチウムイオン電池の開発に参入。茨城県の日立グループの企業城下町は「ぜひ日立市に自動車用電池工場を建ててほしい」(日立商工会議所)と工場誘致に走り出した。もともと日立は、創業時以来の伝統であるモーター生産が得意なため、「電池とモーターを組み合わせれば日立が、電気自動車のキーデバイスメーカーになれる」(同)と見る向きもある。
ガソリンがぶ飲みの大型車が得意だったクライスラーは、ついに破綻した。ガソリン車から電気自動車へのパラダイムシフトが進めば、ガソリンと内燃機関のエンジンによって走ってきた自動車が、モーターと電池で動くようになる。そのとき、ちょうどパソコンにおけるCPUメーカーのインテルのように、電池開発など基礎技術で先行してきた日本勢が「電気自動車のインテル」になるかもしれない。日本勢に薄日が差している。(了)