当然のことながら、待機児童の受入れや延長保育など、保護者の便宜を図ることばかりが保育園の子育て支援ではない。子どもたちを安全・安心な環境で養育・教育し、社会生活の土台となる心身の「根っこ」をたくましく育むことこそが主たる使命である。そしていま、保育園や保育士の専門性に大きな期待が寄せられ、園児はもちろんその保護者や、地域で家庭保育をする親子すべての心を育む場所として、大きな役割を担わされている。
「特に今年に入って、何らかの問題を抱えた家庭が多くなってきた印象があります」。在園児家庭の変化について、そう話すのは、福岡市内のある私立認可保育園の園長。「たとえば親が子育てを放棄しがちだったり虐待があったりする場合、徐々に園から足が遠ざかるというのが1つのサイン。うちの園では、それぞれの状況や段階に応じて担任や主任、園長が電話や家庭訪問をするなど必要に応じた働きかけをするのですが、対象人数や頻度が今年に入って増加傾向にあります」。園では、そうした背景に保護者の失業や離婚・再婚などに伴う生活の変化が大きく影響していると分析。大人の生活の乱れがそのまま子どもに表れていると見ている。
「子どもたちの命と健康を守りたいという思いで長年、園独自に取り組んでいる支援事業の1つですが、そこに費やす労力と時間は大変なものがあります。対象者が増え、事態が深刻化した場合、いまの人員で対処しきれるかどうか不安もあります。かといって、経営状況を考えると、職員の数を増やすということもなかなか難しい」と本音を漏らす。
虐待などが疑われる場合、園と児童相談所、各区保健福祉センターに設置されている家庭児童相談室(福岡市の場合)などとの連携は不可欠である。一方、状況がそれほど深刻でないケースにおいては、各家庭にもう少し身近なところからの日常的な見守りという意味で、地域の民生委員や児童委員の役割は非常に大きい。特に施策によって他校区からたくさんの園児を受入れている園があることを考えれば、一層密な連携が望まれる。しかし、民生委員も児童委員も子育て支援という面では、ほとんど機能していないとの指摘も出ている。
若い母親たちに地域の民生委員や児童委員を知っているか聞いてみた。「知らない」「そういう人がいることは聞いたことがあるが、会う機会もない」という意見が大半である。
また、「システムから言えば、民生委員さんたちからもう少し地域の子どもたちの情報が園に上がってきてもいいと思う。逆に園としても地域と情報共有したいのですが、専門知識があるとか子育てへの理解が深い人ばかりが任命されているわけではないので、どうも話もかみ合わないんです」とこぼす園関係者もいる。
先月、神戸や大阪で新型インフルエンザの患者が発生したことを受け、感染拡大を防ぐため保育所が休園された。これに対して利用者から「働く親の便宜を図れていない」などと批判が集まったことは記憶に新しい。しかし、何よりも大切な子どもの命と健康を守るという観点から言えば、決して間違った判断ではなかったと考える。
今の子育て支援のあり方は、まさに保育園に「おんぶに抱っこ」。しかも大人本位。保護者からも行政からも、求められるものが多くなり、その内容もエスカレートするばかり。その中で、保育園や保育士はまったくの孤立無援状態といってもいい。次回は別の角度から保育園の子育て支援の現状を紹介する。
【山本 かほり】
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