在園児親子だけではなく、地域で家庭保育を行っている親子を対象に、遊びや交流の場を提供する保育園も増えている。中でも福岡市西区にある25の私立認可保育園では昨年度から、地域性と専門性を生かした支援事業に取り組んでおり、母親たちから大きな反響が寄せられている。
プログラムの基本内容は、絵本の読み聞かせやわらべうた遊び、親子ふれあい遊びといったもので、「どう子どもに接したらいいかわからない」「子育てが楽しくない」という母親たちには、ちょっとした子育てのヒントになっている。また、地引網体験や、食育講座として給食の試食会を実施する園、在園児との交流保育を通して「保育園」を身近に感じてもらおうという園もある。各園の実情に応じて、平日に開催するところもあれば、職員や施設スペースに余裕のある土曜日に実施するところもある。余談だが、参加にあたってはすべて無料。市などから各園に何らかの手当がつくわけでもなく、諸費用はすべて各園の持ち出しとなっている。
実施園の1つで今回の取り組みの中心となっている園関係者の1人は「都会の中で孤立しがちなお母さんたちが、子どもと一緒に外に出てくるきっかけになればと思います。できれば、お友達を作って帰ってもらいたい」と話す。
一方、20年以上前からすでに地域の子育て支援事業を展開してきた同区の別の園の園長は、次のように話す。「20数年前に支援事業を始めたのは、家庭の子育て力が低下していることを痛感したからです。まな板と包丁がない家庭が出始め、子どもが描いた海の絵には魚の切り身が泳いでいました。「公園デビュー」という言葉が流行り、若い母親たちはベビーカーを押して、こぞって公園に出かけました。子育ての孤立化が一気に表面化してきた時代だったのです」。
それでも当時の「子育て支援」は、母親たちの自立を促す要素が強かった。
各地で「子育てサークル」の活動が始まったのも同時期であるが、地域の中で孤立しがちな親子を結び付けようと支援したのは、まさに子育て中の母親たちであった。保育園の支援事業に参加した母親の中からも「リーダー」が育ち、自宅を開放するグループもあれば、地域の母親たちが利用しやすいようにと公民館などに掛け合って場所を借りたり、機関紙を発行したりするグループもあった。日時を決めて地域の母親たちを集め、絵本の読み聞かせやわらべうた遊びをした。七夕飾りを作ったりミニ運動会を開いたりして、季節ならではの行事も楽しんだ。サークル対抗の球技大会なども開かれ、地域間のつながりも生まれるなど、様々な活動の中から次代のリーダーも育ち、地域の中で互いに子育てを支えあうようなシステムが自然発生的に生まれつつあった。
しかしその後「(サークルの)リーダーをするのがイヤ」「人のお世話をする自信がない」という母親が増えはじめ、サークル活動は衰退。代わって、子育て支援を謳う行政の主導の下、各地の公民館で「子育てサロン」が開かれるようになった。これは地域の先輩ママたちが「子育てボランティア」として見守りを行い、若い母親たちは、時間内であればいつ来て、いつ帰ってもいい、飲食自由、相談事があればいつでもどうぞ、という支援内容だ。
活動を継続しているサークルやサロンもあるが、その後、子育て支援は求めなくてもどんどん「与えられる」ものとなった。そしていま、すべてが至れり尽くせり、母親は気が向いたときにただ子どもを連れてその場に行きさえすればいい、というスタイルが主流となっている。各区に倍増計画のある「子どもプラザ」などはその最たる例である。保育士ら専門知識を持った人が施設に出向き、出張子育て講座を開いてくれることさえあるという。
前出の園長は言う。「『保育がサービス業と誤解されている』『保育園への負担は増すばかり』と嘆く先生たちも少なくありません。でも、私たちがそこを我慢し、受入れなくてはなくてはならないほど、地域の結びつきは薄れ、家庭で子育てをする力が失われているのです」。
これほど「支援慣れしている」保護者たちにしてみれば、「保育園入園なんか最低限の支援じゃないの?」と勘違いしてもやむを得ないかもしれない。待機児童の増加は、至れり尽くせりの子育て支援の中から生み出された副産物といっても過言ではない。
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