会社のモットー「正直に誠実に」
それが不景気でも受注を伸ばす秘訣
(株)アートホーム(オーナーズホーム若松)
日本を代表するような大手企業でも、前期決算で大幅な赤字を計上せざるをえないほど大不況の昨今。地場の中小企業のなかにも受注量の減少などで、今後の先行きが不透明な企業が多くなってきている。しかし、そんな世界的な未曾有の不景気のなかでも、自社のカラーを明確に打ち出し、お客さまや取引先を大事にすることで受注を伸ばしている企業がある。それが北九州市若松区に本社を置く㈱アートホーム(オーナーズホーム若松)である。厳しい経済環境を逆にチャンスと捉え、躍進する同社の現状をレポートする。
代 表:麥田 啓二
所在地:北九州市若松区高須南1-8-38
設 立:2004年2月
資本金:1,000万円
TEL:093-742-5602
独立を決めたのは、正直な仕事をするため
(株)アートホームは、現代表の麥田(むぎた)啓二社長が2004年2月に設立した戸建業者である。麥田社長は同社を立ち上げる前はアパレル関係に従事した後、地場の戸建業者に約10年間勤務。そこでは優秀な営業マンとして、トップクラスの実績を残していた。しかし、戸建業界はクレーム産業とも言われるように、当時は「お客さまからいつクレームを言われるかとビクビクしていた」と、なにか悶々としながら毎日営業していたという。また、現実にお客さまからのクレームを処理するなかで、会社の利益優先主義とも言える営業体質と自分の理念や信条とに相反する点がでてきた。そこで、ついに独立を決意。03年10月に個人創業し、翌年に法人化した。
独立を決心するにあたって、麥田社長には譲れない想いがあった。それは、「お客さまと一生涯のお付き合いを目指すためにも、正直に誠実にやっていきたい。さらに取引業者も大事にしたい」というもの。
「お客さまとの一生涯のお付き合い」というのは、麥田社長の言葉を借りれば次のようなことである。「これまでは、注文住宅とは言いながら規格を変形させていくだけの、いわゆるかたちだけの注文住宅でした。ですから、お客さまの『こんな家にしたい』という間取りなどの希望を、設計や仕様の原則といったこちら側の理由で断念してもらわないといけないことが多々ありました。しかし、それではお客さまとの一生涯のお付き合いはできません。お客さまの望む家を造るためにも、正直に誠実にやりたいというのが大きな独立の決め手ですね」。
また、お客さまとの関係と同様に、取引業者との関係でもいろいろ考えさせられたという。前職では、お客さまには追加の工事代金を請求しているのに、工事を施工する職人にはその分を払わない、というようなことが当たり前に行なわれていたという。これでは職人は手間ばかりが増えるだけで、良い仕事をしようという気になるわけがない。ましてやそれで手抜き工事などがあれば、後々お客さまとのトラブルになってしまう。だから、麥田社長はお客さまと一生涯のお付き合いをしていくためには、取引業者も大事にしていくことが必要と考えるようになった。そのため、同社では取引業者や職人から追加工事の請求があれば、必ず支払うようにしているという。その結果、今では大きなクレームが皆無だというから、取引業者も同社の仕事に対してはかなりの力の入れようであることがうかがえる。
このように、お客さまと取引業者の双方に対してのいろいろな想いが重なりあって誕生した同社だが、同社とお客さまとの良好な関係を裏付けるエピソードが一つある。それは、同社で家を建てたお客さまからの紹介率の高さである。同社で手掛ける年間数十棟の住宅のうち、半数以上が過去のお客さまからの紹介であるという。これはお客さまからの信頼がないとできないことであり、同社の掲げる「一生涯のお付き合い」が実践されているということである。また、同社ではOBのお客さまとの関係維持のために、お客さま全員とその家族への年賀状やバースデーカードといった定例の挨拶状のほか、「アートクラブ通信」という年4回発行の独自の季刊誌も発送している。一般的な住宅会社は、一度家を建てたら何年間も音沙汰なしで、リフォームの時期になるとまた何事もなかったかのように連絡する、ということも多々あるが、同社では継続的にお客さまと接することを徹底している。
「それほど不景気とは思わない」
建設業界イコール厳しい業界と世間では見られているが、麥田社長は現状を次のように分析する。「いわゆる建設業界はそうかもしれませんが、戸建は分野が違います。それに今の経済状況は深刻的な落ち込みだと言われますが、弊社では前年と比べても大きく受注量は落ち込んでいません。また、利益率もここ2年と比較してもかなり良くなっています。現在の社員はまだ社歴が浅い社員ばかりですから、彼らに力がついてくれれば、もっと受注は伸ばしていけると思います」。
今年4月には本社を移転し、以前にも増して住宅会社らしいハイセンスな事務所となった。特に本社入口のタイルやガラスなどには、麥田社長ならではのこだわりが感じられる。お客さまのみならず、取引先も大事にするという理念を徹底することが、この不況にも負けずに元気な企業であり続ける秘訣となっている。
【宮野 秀夫】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら