3 背後に潜む問題点
今回は杭の頭頂部に瑕疵が見つかったことから、全面的な調査および補修がなされた。しかし、杭の大部分は地中に埋まっている。とすれば、杭の頭頂部にその「兆し」が現れないケースにおいても、地中部分で瑕疵が生じ、それが見過ごされる場合がないとは言い切れない。極論すれば、同様のことは構造物の内部に関わる全ての工程にも当てはまる。そして、それが吹き出た1つの事例が耐震偽装の姉葉事件だったのではなかろうか。
確かに、市場原理の社会では、良いものをより安く提供できる業者だけが勝ち残り、その過程で各社は技術を磨きながらコストを落とす術を身につけていく。しかし、設備の減価償却を終えることで一気にコストダウンを図ることができる製造業とは異なり、労務費を基礎とする建設業でのコストダウンには限界がある。従って、品質の高い建物を作るには一定以上のコストが必要であり、過剰なコストダウンが構造物の品質の低下を招くことは、しばしば指摘される通りだ。
問題は、建築代金を必要以上に切り詰めようとするデベロッパーや、仕事量確保のために過剰な安値受注を繰り返すゼネコン側だけにあるのではない。建物という構造物が出来上がれば、その下では人々の日々の生活が始まる。建物はそこに暮らす人々の命と財産を守る箱であり、建設業者はその箱の命運を根幹から握る立場にある。建設業者はそのことを従来にも増して一層重く自認すべきではないか。そのうえで、ゼネコンやデベロッパー、ひいては社会に対して必要なコストの負担を促していく責任があるのではないか。厳しい業況に紛れ、その認識が徐々に薄れつつある点にこそ最大の問題点が潜んでいるように思われる。
最後にはなるが、広げすぎた風呂敷を元に戻し、先に挙げた業界関係者が今回の事件について寄せてくれたコメントを紹介したい。「S社さんの生コンはJIS規格も取得されていますし、建築現場と生コン工場との距離(時間)も、やや遠いとは言え基準の範囲内です。世間が言うように、S社さんだけを悪者扱いにすることは酷でしょう。ですが、交通事情によっては品質にばらつきが出る可能性もあります。三井住友建設さんは、そのことも考慮したうえで生コン業者を選定すべきではなかったのでしょうか。そして、S社さん御自身にも、納入の際、自社の製品がどういう状態で使われるのかを考えて欲しいのです。自戒を込めてですが、各業者が社会的地位を向上させ、責任ある企業として生き残っていくには必要なスタンスだと思います。」
建設業に携わる各経営者の皆様は、どのようにお考えだろうか。
(了)
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