厚生労働省が都道府県や政令市に出した「通知」は、新型インフルエンザに関して福岡市保健福祉局が業務を行なう場合の拠り所となるものである。今年4月29日から5回にわたった「通知」は、症例定義や医師らが保健所などに擬似症例を届け出る場合の様式などを改定するたびに出されてきたものである。
昨日まで報じてきた4月22日付の「通知」では、症例定義の部分が大きく変えられ、新型インフルエンザ発生地への移動や感染者との接触がなくとも、現場の医師が「疑わしい」と判断すれば保健所へ届出するよう改められていた。現場の医師らの診たてを重視するということである。
これらの「通知」は、各医療機関に対する新型インフルエンザ対応策を示したものであり、発熱相談センターの方針を定めたものではない。従って、通知が出されるたびに医療機関への「周知」あるいは「周知徹底」が明記されている。
市は、これらの通知を市内各医療機関へFAXで一斉送信したとしている。しかし、医師らには新型インフルエンザを疑ったら保健所へ連絡するよう促しておきながら、自らはその寄せられた遺伝子検査要請を拒否していたことになる。まったく矛盾しているというほかない。これではとても早期発見は望めない。
遺伝子検査、実施判断は自治体に委ねられていた
一連の「通知」のうち、4月22日付のものについては、さらに福岡市の不作為を決定付ける一文が明記されていた。同日付通知の「症例定義についてのQ&A(5月24日)」をご覧いただきたい。このページの最後の部分(問2に対する答え)に次のように記されている。
「なお、都道府県の判断にて、擬似症患者であって『正当な理由がある』とされない場合にも、念のためPCR検査をすることは差し支えありません」。
これは、それまでPCR検査を実施する場合は、原則「疑うに足りる正当な理由」が条件付けられていたのだが、各自治体ごとの判断を容認したということになる。もし、福岡市が医師の要請を重く受け止めたうえで柔軟な対応をしていたとすれば、県の保険環境研究所ではなく、市側の検査でもっと早期に感染が判明していたことは明らか。つまり、市がやるべきことを怠ったことが、感染拡大の一因となったのである。この「不作為」についての謝罪もないまま、後手後手に回る市役所の対応からは、市民の命を守ろうという意識は見えてこない。
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