市民の命は行政の縄張りより軽いものだった。
今月6日、福岡市内の新型インフルエンザ感染第1号が確認された。しかし、その福岡市内在住の中学生の遺伝子検査を行なったのは、なぜか県の保健環境研究所。その後、6日以前に福岡市の博多保健所が遺伝子検査を拒否していたことが判明、多くの医師や市民から批判があがっていた。福岡市保健福祉局は遺伝子検査拒否で感染拡大の原因を作ったことについて、「福岡県が県内感染第1号の外国人についての情報を出さなかったため」として責任を転嫁したが、感染確認が遅れたのは明らかに福岡市の不作為によるものだった。
しかし、その後の取材から、福岡市の博多保健所と県の所管である保健所が「管轄」を主張し合い、互いに遺伝子検査の要請をたらい回しにしていたことが明らかになった。
先月末頃から、博多区や春日市内の医師らの間では、保健所が遺伝子検査に応じないという現状について、危惧する声が広がっていたという。6日、複数の板付小学校児童が春日市内の医療機関を受診、A型陽性を示したため医師は新型インフルエンザを強く疑い、博多保健所に対し遺伝子検査を要請した。この段階で患者は最低でも4人だったという。しかし、博多保健所は、春日市にある病院の管轄が筑紫保健所(筑紫保健福祉環境事務所)であることを主たる理由として遺伝子検査を拒否。やむなく医師が筑紫保健所に連絡を取ったところ、今度は事情を聞いた筑紫保健所側が、最初に博多保健所が対応したのなら博多保健所に頼むようにとして、これまた遺伝子検査を断ったという。人命軽視の「たらい回し」の典型である。
博多、筑紫の両保健所が管轄を盾に遺伝子検査を拒否したことは、単純に「不作為」で済まされる問題ではない。市民の命を守るという基本的な意識が皆無だったということに他ならない。公務員としてという前に、人間として許されない行為である。患者にとって病院がどこにあるかは問題ではない。春日であろうが福岡市内であろうが信頼できる病院にかかるのは患者側の自由。そこに保健所側が管轄の問題を持ち込んだことで、市民の命は置き去りにされたのである。保健所長のクビ程度で済む問題ではあるまい。
関係した医師らの話からは、さらに行政の不作為を証明する話が聞こえてきた。
(つづく)
【市政取材班】
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