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特別取材

シリーズ「保育」 永野繁登・福岡市保育協理事長に聞く(2)
特別取材
2009年6月24日 08:00

 ──「保育」が置き去りということですが、最近の保育行政の問題について教えてください
永野繁登・福岡市保育協理事長
 永野 厚生労働省は、これまで保護者と自治体の契約を通して入園していた制度を、保護者と保育園の直接契約に変えようという考えを持っています。要するに、自治体に保育事業から手を引かせるという魂胆ですが、これは、公共性の強かった保育事業に、準市場主義を取り入れようというもので、私は大反対です。

 ──その理由は?

 永野 厚労省がやった介護制度の失敗と同じことですよ。そもそも保育経費の80%は人件費なんです。保育に準市場主義を導入すれば、必ず経費の節減が求められる。その矛先は保育士の給与に及ぶことは間違いありません。そうすれば必ず保育の質が下がっていきます。

 ──保育に市場主義はそぐわないということですね

 永野 失敗例が介護でしょう。介護保険制度は市場主義を導入したことで低賃金重労働になった。ヘルパーなんかの資格を持っている人はたくさんいるが、辞める人が多く質が維持されない。特に子育ては利益を上げるものではありません。保育に必要なのは安心。やはり自治体が介在していることで、安心できるんですね。行政には福祉を守る義務があるんです。そもそも小泉政権の何でもかんでも改革という路線は間違っていました。福祉は市場原理にそぐわない。自民党はそれまでは福祉を守ってくれていたが、小泉政権以後は改革派ばかりになりました。準市場主義が進めば貧しい人が寄り付けなくなる。

 ──ところで、自民党も民主党も子育て支援と称して、子ども1人につき数万円を支給するとしていますが、あれは本当に子育て支援なのでしょうか?

 永野 私は、直接補助という考え方には反対です。その理由として1例をあげましょう。子育て支援と称して、直接保護者に補助金を出しますよね、国ないし市から。で、それを保育料としてもらうとします。保護者からもらった場合には、もう税金じゃないんです。今は税金です。直接、自治体からもらっていますからね。税金だからこそ使い方にも制限があるんです。保育以外のことには使えないお金であり、ましてや自分のポケットに入れてはいけない、もっと分かりやすく言えば、商売ではないということです。税金だから監査が厳しくなる。監査は厳しくなされるべきです。しかし一度保護者にわたったお金をもらうようになったら、これは先ほど言ったように直接契約にも結びつくことで、保育はサービスになってしまいます。市場主義ですよね。もちろん厳しい監査はなくなります。本当にそれでいいんでしょうか。私はそれではいけないと言っているんですね。

 ──不況の影響もあって働くお母さんが増えたとかで、福岡市の待機児童が1,000人近くになっています。この点について聞かせてください。

 永野 待機児童の数とは、認可保育園に入園したいと申し込む人の数です。どうせ入れないからと申し込まない人もいるわけですから、数字に表れない待機児童の数は公表されている数より多いでしょうね。いずれにしても、待機児童解消には保育園側も全力で取り組んでいます。

 ──保育園を増やすのはいいですが、景気が回復したり、子どもが少なくなった時にはどうするかお考えですか?

 永野 その時は保育園の定員を減らせばいいでしょう。

 ──経営上苦しくなりませんんか?

 永野 保育そのものは、保育園のためにあるわけではないんです。これを園長会議で言ったら怒られるんですけども、定員とかそういうのは、保育園のためにあるのではありません。

 ──子どもですね

 永野 そうなんです。子ども。保育は子どものためにこそあるべきものです。

 ──待機児童の話に関連しますが認可外保育所については・・・?

 永野 私は、例えば、認可外保育所でも、一定の基準を満たせば、一時保育、保育ママ制度、小規模保育所などを実施すべきだと主張してきました。無認可でも、できるところには補助を出すべきだと。やれるところはやってもらうことが大切ですよ。


■永野繁登氏 プロフィール■
東京大学農学部卒。財団法人日本農業コンサルタンツに勤務後、母親が経営していた永野福祉会玉川保育園を継いだ。現在、永野福祉会理事長、玉川保育園園長、福岡市保育協会長、日本保育協会理事などを務め、審議会などで厚生労働省や福岡市の保育行政に対して提言を行なっている。趣味はテニス。

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