こうした中で通商産業省(当時)が主導したのが国内のDRAMメーカーの大同団結だった。一時は大手5社を1社に統合する案があったが、結局、NECと日立のDRAM部門を統合して99年暮れにエルピーダが発足。03年には三菱電機のDRAM事業も譲り受けた。この再編を描いたのが、経済産業省の辣腕官僚として知られ、IT政策室長や情報通信機器課長を歴任した福田秀敬氏だった。つまりエルピーダはその生い立ちからして国策会社なのである。
統合したものの、エルピーダの経営は好転しない。09年3月期決算までの8回の通期決算のうち黒字になったのは05年と07年の2回だけ。毎年のように巨額赤字を垂れ流し続け、09年3月期では1,787億円の純損失を計上した。赤字のたびに資本増強の必要に迫られ、これまでも再三、取引先金融機関やインテルなどからの出資を受け入れて生きながらえてきた。東証一部に上場しているのが不思議なくらいである。
国の庇護から抜け出せず
問われる「延命」の意義
赤字構造から抜け出せない背景には、6社もある台湾DRAMメーカーとの価格競争がある。みなが一斉に同じDRAMを生産するものだから、供給過剰になって価格は常に軟調気味なのだ。事態を憂えた台湾政府は、力晶、茂徳、華邦、瑞晶の大手4社を統合して国策会社「台湾記憶体(TMC)」を設立する構想を立てている。エルピーダは台湾サイドから技術支援を求められており、研究開発分野で提携する方針だった。
経済産業省は今回の公的資金による出資を機に、単なる提携にとどまらず、日台半導体メーカーの合併など大再編を検討している。単なる技術面の提携に終われば軒を貸して母屋を取られることにもなりかねない。国境を越える思い切った再編によって、韓国サムスンに対抗しようという腹である。情報通信機器課の担当幹部は「エルピーダはいまや日本唯一のDRAMメーカー。それがなくなってはいけない。しかし単体で残っても意味がない。大きなグループになることは意義があること」と言う。
さて、大同団結して延命できるだろうか。ハイテクの固まりであるとはいえ、DRAMはステッパーなどの製造用装置さえあれば、後発国でも割と簡単に量産できる製品だ。価格をダンピングしてきた台湾勢を押さえ込んだとしても、後発国に第2、第3の新興勢力が出ないとも限らない。逆に言えばそんなだれでもつくれるものを、国費を投じて救済する必要があるのだろうか。「日本唯一のDRAMメーカー」などと情緒的なことを言わず、必要ならばサムソンなどから調達すればいいのである。
生い立ちからして国策会社であるエルピーダは、いつまでたっても国の庇護から抜け出せないでいる。ビッグマウスとして大口を叩くことの多い坂本幸雄社長だが、いつまでも国頼みではなかろう。経営者のモラルハザードも懸念される。
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