昨今、小児科医や産婦人科医の不足が言われて久しいが、同様に医療の世界で問題視されているのが、いわゆる「一般外科医」の減少だという。
厚生労働省の統計によると、1980年代後半から明らかな減少傾向を続けており、02年には2万3,868人だった一般外科医は、06年までに2万1,574人と約10%も減少している。日本外科学会の新規入会者数もあわせて減少しており、同学会では2018年ごろには新規の入会者がゼロになると試算している。
外科志望者が減っている理由は、「労働時間の長さ」「医療事故やそれに伴う訴訟リスクの高さ」など。日本外科学会が06年に行なったアンケート調査では、外科医の週平均労働時間は59.5時間、病院勤務者に至っては週平均68.8時間の勤務に及んでいることがわかっている。また訴訟リスクについても、05年度内に発生した医療訴訟1,032件のうち、産婦人科の11.5%に次ぐ9.6%が外科の訴訟であり、ともに外科医療現場の過酷さを示している。あわせて、頻発する医療訴訟を恐れ、リスクの低い診療や検査、処置を選択し、またハイリスクの患者の診療を避ける傾向、いわゆる「防衛医療」が増えているという。
新規に外科医を志す人が減っていることについては、
「今は以前のようなストレート研修ではなく、スーパーローテーション研修(最低でも内科、外科及び救急部門(麻酔科を含む)、小児科、産婦人科、精神科及び地域保健・医療の研修をそれぞれ1カ月以上行なう)が行なわれています。この段階で外科の厳しい現場に接して、外科医になることを避けている人が増えているのではないでしょうか」(福岡市内の開業医)。
今年3月に起こった東京・愛育病院の指定医返上問題が示すとおり、医療の現場と医療制度改革を強行に推進する政府との乖離は時間を追って広がる一方である。「このまま外科医が減れば、例えば急を要するような手術でも長期間の待機を余儀なくされることが恒常的になる可能性もあります。一方で、どうにかしようとフル回転で頑張るお医者さんには、違法労働だとして労働基準監督局から指導が入る。放っておくと、日本の医療は本当に完全崩壊してしまいます」(前出の開業医)
このままでは医師の負担が増えるだけ。誰もが安心して医療を受けられる医療制度の見直しが望まれる。
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