前回の記事「日本郵政の闇『チーム西川』に実態解明のメスを」(今月17・18両日)に、日本郵政およびトヨタテクノサービス社から奇妙な反応があった。一言でいえば記事への抗議と削除要求だが、筆者は記事を取り消すつもりはない。事の経緯を詳細に記すことで両者への回答とする。
鳩山邦夫前総務相の更迭劇で、日本郵政(以下、郵政)は西川善文社長続投の流れができたものの、やはり麻生首相と西川氏への世論の反発は各種世論調査が示す通り。政府は西川氏の会長棚上げによる新社長担ぎ出しで事態収拾を図ったようだが、これにまたも「小泉・竹中コンビ」に代表される民営化推進派が反発。西川氏続投を認める代わりに、「チーム西川」のリーダーとして民営化後の郵政を仕切ってきた横山邦男専務執行役退任の方向で妥協が図られているようだ。
しかし、それらはあくまでも報道。水面下ではさまざまな動きがある。横山専務に関わる今回の原稿を編集部に送ったのは15日。17日には記事の前半がデータ・マックスの「Net‐IB」に掲載された。郵政広報室の佐藤恭市次長から連絡があったのは、後半が掲載された18日午前である。
佐藤次長の趣旨は、記事中に事実誤認が二つあるという抗議だ。一つはトヨタビルテクノサービス社(以下、T社)が、東京・赤坂の料亭で横山専務以下の郵政社員に挨拶していることについて「郵政側出席者は、エレベーターの保守、管理の発注も扱う不動産部門スタッフだった」という記述。「そもそも横山はエレベーター保守、管理の担当ではない」(佐藤氏)という。そしてもう一つが「T社は料亭での横山専務以下の接待を認めたものの」という記述について、「接待されてはいない」(佐藤氏)という。
広報マンとしての佐藤次長の立場を斟酌すれば、2カ所の誤りを指摘することで記事全体を否定したいということであろう。1点目についていえば、横山専務が郵政では西川氏の懐刀として全権を振るう存在だったことで足りるはず。それについては現郵政関係者の証言や多くのメディアによる指摘もある。
2点目の「(T社に)接待されていない」というのは郵政としても、横山専務としても譲れない一線だろう。「かんぽの宿」に代表される郵政問題は民営化是非論を別に、株式100%を政府が保有する会社のガバナンス(企業統治)、コンプライアンス(法令順守)の問題だ。競争入札を謳いながら業者選定に「接待」が絡んでいたとすれば問題視されるのは当然だ。西川氏続投が確定する29日を前に、郵政として本誌記事は看過できないはず。
問題の「接待」に広報室は誰から、どのように事情を聴取して筆者に抗議してきたのか。そのあわてふためきぶりが明確になったのが22日朝である。T社田中彰比古社長からデータ・マックスに記事の取り消し要求があった。連絡を受けてすかさず田中氏に電話すると、「郵政からネット記事を知らされた」「『接待』は間違いなので記事を削除してほしい」「その旨を内容証明で出す」というもの。そして翌23日、「接待した事実はない」「記事を削除しなければ法的措置をとる」という趣旨の田中社長名の内容証明が届いた。
つづく
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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