7月1日に2010年度予算概算要求基準(シーリング)の閣議了解が予定されている。例年よりも1ヶ月も早い閣議了解は、総選挙を意識してのことだ。シーリングは、先に閣議決定した「骨太の方針09」を踏まえて了解されることになっている。
ところでこの「骨太の方針09」をめぐって、相変わらず政府・与党内で不満がくすぶっている。これは、年間2,200億円の社会保障費抑制を実施しないことを自民党から求められた政府が、「骨太の方針09」で「社会保障の必要な修復をする」と決定したことによる。
小泉内閣は、財政再建のために公共事業の削減による財政構造改革を進めてきた。それは市場原理主義による「小さな政府」路線によるもので、いわゆる「官から民へ」という言葉に表されるように、道路公団や郵政の民営化を推進してきた。しかし、公共事業の削減だけでは財政再建の展望は見出せず、「聖域なき改革」を行なうとして社会保障費の分野までに切り込んだ。これが「骨太の方針06」である。社会保障費について、07年度から11年度までの5年間で1兆1,000億円の歳出削減を図るものである。
この結果、地方における医師不足、後期高齢者医療制度、介護などの問題が噴出し、後継の安倍、福田両内閣とも展望を見出せず退陣。その後の麻生内閣は、誕生のいきさつからして「財政拡大」派と「財政改革」派とのバランスの上に成り立っており、主体性なき対応に終始してきた。
今回の社会保障費抑制の撤回は、この小泉路線からの事実上の政策転換である。これに呼応して自民党の族議員からは、「景気対策優先を明確に」という歳出拡大の要求が続出している。一方、財政再建派からは「財政への責任を考えて」と言う声も聞かれるが少数派でしかない。今回の政策転換は、社会保障費の抑制路線を続けていたらとても総選挙は戦えないという自民党の危機感の表れでもある。選挙目当ての方針転換では、今日の状態に陥った原因や今後の方向性、財政再建に向けた筋道などが明らかになったとは言いがたい。まさに「理念なき政策転換」だ。麻生首相は「単純な小さな政府至上主義からは決別した」とも述べているが、小泉改革後の政治が何を目指すのか、その方向性がないままの政策転換では国民の信頼は得られない。