その後、「ワシントン・ポスト」紙が追加の取材を行った際にも、ホルドレン博士は「最悪の事態の到来は少し先に延びているようだが、今後10年以内には間違いなく10億人の人々が、異常気象がもたらす干ばつ等の原因で命を失うことになる」との終末論的な見通しを改めて強調していた。
ホルドレン博士が地球の環境問題に大いなる懸念を抱いていることは理解できるものの、その極端な発言や主張には多くの同僚たちや世界の科学者の間でも疑問符が常に投げかけられている。その様な物議を醸す人物を自らの科学政策の顧問に任命したオバマ大統領の見識が疑われることは否めないであろう。
オバマ大統領自身もホワイトハウス入りした後、地球環境問題に様々な発言を繰り返しているが、その都度、ホルドレン教授の影響が色濃く感じられる。曰く「世界各地で巨大かつ壊滅的なハリケーンが頻繁に発生している。地球の気象パターンが完璧におかしくなっている証拠と言えよう。ある場所では極端に気温が上昇し、また別の場所では極端に気温が低下している。その結果、我々の経済も多額の損害を受けることになってしまった。これは決して人々を脅かそうと思って言っているわけではない。最新の科学の研究成果をみても、明らかに地球は人類の予想を上回る猛スピードで異常な時代に突入しようとしている」。
こうしたオバマ大統領の発言はホルドレン教授の発言とそっくりである。しかし、どこまでそういった最悪のシナリオが進んでいるものかどうか、必ずしも国際機関や研究者の間では見方が一致しているわけではない。異常なまでの地球温暖化や激しい気候変動という現状を目の当たりにし、世界の注意を喚起し国際的な対策を講じようとする意気込みは十分理解できる。
また、そのような認識の下に地球環境に配慮した新たな代替エネルギー源の開発や国民にエネルギーの有効利用を促そうとする「グリーン・ニューディール」政策も今日的に最重要課題のひとつであることは論をまたない。
とはいうものの、オバマ大統領の周辺に集まりつつある、いわゆる革新的な科学者と言われる人たちの顔ぶれを詳細に分析すると、その研究姿勢や発言内容にバランスを欠いていると思われるケースが多々あるため大いに気になるところではある。
(つづく)
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
1953年鳥取県生まれ。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学大学院にて政治学博士号を修得。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現在、国際未来科学研究所の代表。
専門は「技術と社会の未来予測」「国家と個人の安全保障」「長寿企業の戦略経営」。米ワシントン・ロータリー・クラブ米日友好委員長、発明王エジソン生誕150周年祝賀事業実行委員長、日本バイオベンチャー推進協会理事、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、特許庁工業所有権副読本選定普及委員、鳥取県公園都市推進事業委員などを歴任。
主な著書:ベストセラーとなった「ヘッジファンド」(文春新書)をはじめ、「知的未来学入門」(新潮選書)、「快人エジソン」(日本経済新聞社)、「たかられる大国・日本」(祥伝社)、「サイバーテロ」(PHP)、「ブッシュの終わりなき世界戦争」(講談社)、「通貨バトルロワイアル」(集英社)、「チャイナ・コントロール」(祥伝社)、「ウォーター・マネー」(光文社)、「エジソンの言葉」(大和書房)、「イラク戦争:日本の分け前」(光文社)、「悪魔の情報戦争」(ビジネス社)、「黒いホワイトハウス」(祥伝社)、「ハゲタカが嗤った日:リップルウッド=新生銀行の隠された真実」(集英社インターナショナル)など多数。最新刊は、「たかられる大国・日本」(祥伝社・黄金文庫)、「胡錦濤の反日行動計画」(祥伝社)。また、毎週月曜日の午前9時10分から「山陰放送(BSS)」にて「浜田和幸の世界情報探検隊」、午後2時40分から「ニッポン放送・テリー伊藤のってけラジオ」にて「浜田和幸の世界びっくりニュース」をOA。毎週火曜日午前7時からは、「文化放送・蟹瀬誠一ネクスト」のレギュラー・コメンテーターとして最新ニュースの裏側を解説している。
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