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東京レポート

企業研究:東京建物(株) (1)
東京レポート
2009年7月11日 12:41

福岡では通用しなかったブランド力
地価高騰の尖兵役で汚名を残す

 旧安田系の総合不動産業者で、マンション販売と賃貸ビルを主力に展開し、近年はSPCなど不動産証券化にも積極的に取り組んでいる東京建物(株)。財閥系で長年の実績と歴史を持つが、東京では三菱、三井の後塵を拝し、後発である森ビルにも及んでいない。札幌などの地方都市でも、街の中核を担うものは創れなかった。しかし、2002年1月に進出した福岡では、そうした二の舞いにならないように積極的に仕掛けてきた。「西新エルモール・プラリバ」に「VIORO」、そして「薬院ビジネスガーデン」(しろやま乃湯跡地)に「博多祇園センタープレイス」(博多区のユニード跡地)など次々と開発を行ない、当時は「東京建物がフクオカの街づくりの一翼を担っている」と評されていた。しかし、各施設ともにテナントで苦戦が続き、オープン後も入居斡旋で四苦八苦している。同社の福岡での状況を検証する。

COMPANY INFORMATION
代 表:畑中 誠
本 社:東京都中央区八重洲1-9-9
設 立:1896年
資本金:771億8,100万円

<旧岩田屋保有物件の一括購入から本格的活動>

 2006年9月、女優の田中麗奈さんが参加してオープニングのテープカットを行ない、天神2丁目のファッションビル「VIORO」は華々しくオープンした。きらめき通り交差点に面した1,505m2の敷地に、地下3階、地上8階のビルを建設。このうち売場は地下2階から地上7階までの約7,400m2で、アパレル、インテリア、雑貨などの専門店と飲食店計58店が入居した。「25~35歳の働く大人のココロを持った女性」を主な対象とし、上質で高感度なファッションと「ここしかない」という商品を集積したという。全店舗の7割以上を九州初出店が占め、 「ユナイテッドアローズ」、「シップス」といった全国的な有名専門店も、九州の旗艦店として大名地区から店舗を移転させた。
 もともと、「VIORO」の土地は岩田屋が保有していたが、03年2月に経営不振で旧西新岩田屋、DADA(ダダ)ビルなど他の保有物件19カ所とともに東京建物に119億円で一括譲渡したものだった。
 同社は、安田財閥の創始者である安田善次郎が1896年に設立した日本で最も古い歴史を持つ総合不動産会社。設立当初より日本で最初の住宅ローンを開始し、1998年には国内で初のSPC法に基づく不動産証券化第1号登録を取得するなど、不動産業界のなかでは先駆者的な役割を果たしてきた。また、分譲マンションの供給戸数ランキングでも全国・首都圏・近畿圏では常にトップ10に入る実績を持っている。
 九州・福岡では実績がなかったが、旧岩田屋が保有していた物件の一括購入から本格的に活動を開始し、積極的に開発案件を進めることとなった。

<積極的な購入で地価高騰の尖兵役に…>
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 「VIORO」の開業と同じ頃、福岡で話題となっていた物件を東京建物が落札したというニュースが飛び込んできた。城山観光が所有する中央区薬院の「薬院しろやま乃湯」だ。また、博多区祇園町の旧ダイエー店舗の入札にも参加しているとささやかれ、06年秋は東京建物の話題で持ちきりだった。
 当時、畑中社長は「VIOROを今後の九州での展開の礎にし、積極的に事業展開を計画する」と方針を述べていたが、言葉どおりの積極策だった。
 しかし、落札価格が問題だった。中央区薬院の「薬院しろやま乃湯」跡地の入札で負けた企業は「ウチと坪単価で200万円の差がついていた。そんな価格では商売の計画が立たない」、「東京建物さんは商業ビルにするという話を聞いています。落とした価格が価格ですからね。マンションなどの住居やオフィスでは費用対効果が合わないでしょう。VIOROのように話題の店が入るのではないでしょうか」、「1棟丸ごと契約する企業があるようですよ。東京ブランドの強さでしょうかね。でも、あんな価格で合うんですかね」といった声が聞かれていた。
 祇園町の物件も然りで「価格で対抗できない。これからはもう少し考えないと、全部負けてしまう」と危機感を募らせる企業も出てきた。
 その後は地元企業の落札も聞かれたが、その価格はうなぎのぼり。一気に5倍、10倍以上になり、西通りの土地は坪2,000万円という声が聞かれ始めたのも、この頃からだった。
 「それまでも、国体通りで破格値の落札があったりしましたが、落札価格とそんなに差はなかったんです。計画作りがよければ、対抗できる価格だったんです。ところが、薬院と祗園の物件は手も足も出ない。あの頃から無理してでも落とさないといけないということで、一気に価格が上がりましたね。それは私だけでなく、各社がそう思ったんじゃないですか。両方とも、これまでの中心地からは少し離れているので抑えられるところだったんですが、それも通用しなくなりましたからね」(地元関係者)。
 これまでの「福岡の物差し」から、「東京の物差し」で落札に参加することで、周辺の価格まで一気に上がるという『地価高騰の尖兵役』となったのが、東京建物の2物件の落札だったのだ。

<結局は入居が進まず、いまだ4~5社程度>

 それでも、この2物件のプロジェクトが成功すれば福岡の商圏も広がることになり、それなりに期待する声もあった。
 そうしたなか、今年1月にこの大型オフィスビル2棟が完成し、2月より入居が始まった。
 「博多祇園センタープレイス」(11階建、延床1万8,867.27m2、1フロアー325坪、キャナルシティ近く、旧渕上ユニード跡地)と「薬院ビジネスガーデン」(14階建、延床2万4,423.88m2、1フロアー400坪平均、西鉄薬院駅そば、旧しろやま乃湯跡地)であるが、両ビルとも入居率は低く、実際に入っている企業は4~5社程度とガラガラの状態だ。
 現在の福岡のオフィスビルの入居率は、不動産ミニバブル崩壊とオフィスビルの供給過剰のため悪化しており、その影響だという声も聞かれるが、祗園のビルの向かいに建設中の三井ビルはまずまずの入居数を確保しているようだ。
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 これは、三井と東京建物の「ブランド力」の差でもある。安田財閥系である東京建物が福岡に進出したのは02年から。本格的に名前を聞き始めたのは06年の「VIORO」オープン以降で、「東京建物」という企業の浸透度は低い。福岡ではまだ、そのブランド力が通用しないのだ。福岡での実績はないに等しいのだから仕方ないが、東京や関西などと同様に考えていたとすれば、戦略のミスである。
 同社は、福岡・天神の商業施設「VIORO」と西新の「プラリバ」を有しているほか、単独で分譲マンション「ブリリア大濠」、コラボ案件で「ネクサス藤崎スクエア(09年8月下旬完成予定、81戸)」、「ヴァークスマリノアアベニュー」、「ブライトンヒルズ二日市」、「ブリリア平尾浄水」を開発するなど積極的。開発案件も洗練されたもので周囲の評判も高いが、ブランド力が通用しなかったことと破格値で落としたツケで、設定や賃料なども落とせず、このままであれば『地価高騰の尖兵役』という「汚名」を残すだけであろう。

(つづく)

【石崎 浩一郎】


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