ルース氏はオバマ大統領との関係の強さがウリの大使であるが、実は、自らがCEOを務めるシリコンバレー最大の法律事務所の強みはエネルギー関連企業の上場支援ビジネスに他ならない。通常の法律事務所とは一線を画し、技術系のベンチャーに対して各方面の投資家から資金を調達し、上場するまで支援する投資ファンドを運営しているのである。
CEO在任中の最後の仕事は、アメリカのエネルギー省から代替エネルギー政策担当の次官補をヘッドハンティングし、自らの法律事務所内にグリーン・ニューディール・ビジネス支援部門を誕生させたこと。今では「ソーラーバレー」と異名をとるようになったシリコンバレーのクリーン&グリーン企業への投資案件を数多くまとめ上げた兵(つわもの)である。
当然、日本での最大の仕事は、オバマ大統領が進めるアメリカ発の代替エネルギービジネスの売り込みだ。日本ではほぼ無名の存在であったが、カリフォルニア州では凄腕弁護士として恐れられてきたルース氏。日本人や中国人の弁護士も使い、日本企業を50社以上顧客に抱える。当初、本命視されていた知日派のジョゼフ・ナイ教授などより、はるかに手ごわい大使の登場となるだろう。日本企業も手玉にとられないようガードを固める必要がありそうだ。
超電導にはじまり、太陽光発電まで、これまで日本は自前の技術を惜しげもなく世界に開放してきた。もし、しっかりとした特許戦略が構築されていれば、今ごろ日本は名実ともに世界の代替エネルギー大国になっていたはずだ。しかし、残念ながら政府も民間企業もそうした発想がなかったため、アメリカはじめ海外勢に特許を奪われるなどして美味しい汁を吸われ続けている。こうした愚行をもう繰り返すわけにはいかない。
日本は環境技術立国としてチェンジできるかどうか、瀬戸際に立たされているといえよう。オバマ大統領の標榜する緑のニューディールといかに向き合うか。日本の外交力と民間の交渉力が試される。日本とすれば、先行する欧米市場に限らず、途上国のインフラ整備などを支援する政府開発援助(ODA)を有効活用し、日本企業が得意とする太陽光発電や淡水化設備の導入を加速させるべきである。ODAの受注先を日本企業に限定した無償資金協力という枠組みを使わない手はない。一刻も早く、日本の環境技術の恩恵を世界に知らしめる努力を官民挙げて取り組むべき時だ。
(了)
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
1953年鳥取県生まれ。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学大学院にて政治学博士号を修得。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現在、国際未来科学研究所の代表。
専門は「技術と社会の未来予測」「国家と個人の安全保障」「長寿企業の戦略経営」。米ワシントン・ロータリー・クラブ米日友好委員長、発明王エジソン生誕150周年祝賀事業実行委員長、日本バイオベンチャー推進協会理事、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、特許庁工業所有権副読本選定普及委員、鳥取県公園都市推進事業委員などを歴任。
主な著書:ベストセラーとなった「ヘッジファンド」(文春新書)をはじめ、「知的未来学入門」(新潮選書)、「快人エジソン」(日本経済新聞社)、「たかられる大国・日本」(祥伝社)、「サイバーテロ」(PHP)、「ブッシュの終わりなき世界戦争」(講談社)、「通貨バトルロワイアル」(集英社)、「チャイナ・コントロール」(祥伝社)、「ウォーター・マネー」(光文社)、「エジソンの言葉」(大和書房)、「イラク戦争:日本の分け前」(光文社)、「悪魔の情報戦争」(ビジネス社)、「黒いホワイトハウス」(祥伝社)、「ハゲタカが嗤った日:リップルウッド=新生銀行の隠された真実」(集英社インターナショナル)など多数。最新刊は、「たかられる大国・日本」(祥伝社・黄金文庫)、「胡錦濤の反日行動計画」(祥伝社)。また、毎週月曜日の午前9時10分から「山陰放送(BSS)」にて「浜田和幸の世界情報探検隊」、午後2時40分から「ニッポン放送・テリー伊藤のってけラジオ」にて「浜田和幸の世界びっくりニュース」をOA。毎週火曜日午前7時からは、「文化放送・蟹瀬誠一ネクスト」のレギュラー・コメンテーターとして最新ニュースの裏側を解説している。
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