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東京レポート

企業研究:東京建物(株) (2)
東京レポート
2009年7月13日 08:00

分析レポート・連結貸借対照表から観る連結財務状況

<急激に悪化した財務構造、改善と体質強化が急務>

 米国発のサブプライムローン問題から派生した景気の急激な後退局面に巻き込まれ、同社の事業環境も大きく変化。連結の主要経営財務指標も軒並み悪化し、同社グループを取り巻く事業環境は厳しい状況が続いている。
 同社の連結財務状況について、貸借対照表およびキャッシュフロー計算書から分析を行なった。
要約キャッシュフロー計算書から表2参照

<営業キャッシュフローの赤字が最重要課題>

 営業キャッシュフローは、継続事業で最も重要視しなければならない資金データであり、この資金は「本業での稼ぎ」を意味する。サブプライム問題の起こる前、05年12月期決算からこの08年12月期まで、同社の営業キャッシュフローは連続赤字(表2参照)。営業キャッシュフローから設備、投融資資金へ回らないのはともかく、本業の営業資金が不足する状態である。
 不足資金は有利子負債で賄っている。直近4年間で最も厳しい赤字は07年度の▲172億円。参考までに、三菱地所はサブプライム問題が起こった08年3月期に▲162億円の赤字に陥ったが、過年度(03年~)は年間777億円~1,500億円内外の黒字体質。この09年3月期には458億円の黒字に回復している。

<赤字幅増加原因は「棚卸資産」の回転鈍化>

 同社の営業キャッシュフローを圧迫してきたのは、結果的に利益水準を超える過大な「棚卸資産」、すなわち販売用不動産、仕掛不動産、開発用不動産、販売用不動産信託受益権等への投資が膨らんだところにある。この投資増加は、とくに07年度に大幅増加している。サブプライム問題が公になる直前の投資である。この傾向は08年12月期まで続き、08年12月末におけるたな卸資産への投資残高は1,834億円にまで膨れてしまった。さらに、不動産開発SPCへの出資(投資有価証券)、匿名組合への投資等も増加。これら増加資金のほとんどを有利子負債で賄っている。有利子負債で拡大してきたことが、同社の財務体質を悪化させてしまった。
要約貸借対照表から表1・表3参照

<使用総資本が増加し、資金効率を悪化させる>

 キャッシュフローで述べてきた通りの結果で、資金需要としての使用総資本(=総資産)が増加。増加資金を有利子負債で調達してきた結果、貸借対照表は膨れてしまった。結果、使用総資本経常利益率、有利子負債依存度合、自己資本比率など資金構造・効率を悪化させている。
 使用総資本は07年度中に1,582億円増加して、それまでの6,000億円台から一挙に8,335億円へ。さらに08年度も増え続け、年度末には9,640億円に増加した。使用資本増加のほとんどを、社債を含めた有利子負債で賄ってきたが、収益環境劣悪のなかではリスクが大きい。有利子負債残高は06年12月末の3,192億円から、08年12月末には約1.7倍の5,396億円まで増加し、重たい。

<有利子負債依存度合が50%を超えて56%へ>

 営業キャッシュフローが05年12月期に▲9億4,100万円の赤字に陥って以降、別表通り連続赤字。とくに07年度をピークとする商品不動産(=棚卸資産)への投資の回転が停滞、加えてSPC(特別目的会社)等への投資拡大が一層の資金需要をもたらした。先述のとおり、これら資金需要増加を、銀行借入に加えて600億円の社債発行など有利子負債で賄ってきた。収益環境悪化が資金構造を悪化させ、有利子負債依存度合は要注意ラインの50%を超えて08年12月期には56%に達した(表1参照)。参考までに、三菱地所は41.3%、三井不動産が46%と、いずれもこの最悪期でも50%以下である。

<自己資本比率は大きくダウン>

 使用総資本の増加に対応する利益確保が追いつかない。資本効率は50%ダウン。すなわち、総資本経常利益率(=経常利益÷使用総資本×100%)が4.7%から一挙に2.1%にダウン。これは、直近の投資効率がいかに悪かったかを物語る。この結果、自己資本比率も従前の31.4%を大きく下回り、08年12月期は23.2%にまで低下してしまった。有利子負債依存度合との逆現象の経営結果が明確に出た。

[総括]

 課題は極めて明快である。有利子負債はもう増やせない。資金効率化を徹底的に実施して、使用総資本(総資産)を圧縮することである。
 同社は09年度第1四半期決算において、棚卸資産の評価方法を変更して54億円の評価損を計上、棚卸資産を圧縮した。また、収益力と財務体質の強化を図るために、新たに中期経営計画を策定し推進中である。有利子負債依存度合を50%未満へ、自己資本比率を30%以上へ回復させることを達成してこそ、歴史ある当社の財務基盤は強化され、新たな飛躍へつながる。
 貸借対照表は会社の品格を表わし、設立以来の歴史を刻み引継いでいる。総合不動産会社として日本で最も古い歴史を持つ同社。110余年積み重ねてきた会社の品格は落とせない。

(了)

【中尾 勉】


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