福岡市博多保健所(正式には博多区保健福祉センター)は、遺伝子検査を拒否したことについて「不作為」であることを頑として否定してきた。同保健所の永野美紀健康課長は、データマックスの取材に対して、さまざまな理屈を並べ立て「不作為ではない」と反論する。不作為の証明として、医師らの話や「新型インフルエンザ相談票(以下、『相談票』)の記述について報じてきたが、同課長はそれでも我々は悪くないと言い張る。非を認めない「お役所体質」からは、市民の健康を守るという視点が欠如していることがうかがえる。
天網恢恢疎にして洩らさずというが、医学博士である永野課長がどんなに頑張っても、不作為の証明は次から次に見つかってしまう。福岡市内初の新型インフルエンザ感染者が確認された先月6日、博多保健所が春日市内の医療機関からの遺伝子検査の要請を拒否した折の「相談票」を、もう一度ご覧いただきたい。そこには、『板付小に健康調査等を行い現時点では新型―ではなく』と記されている。取材班が注目したのは板付小に行ったとされる『健康調査等』の文言である。
実は、6月4日、5日、と博多保健所は、医療機関からの問い合わせに対し、『学校へ5人以上の休みがあれば届けてもらうように伝えていること』(4日『相談票』の記述)、『学校から発熱5人以上あれば保健所へ連絡があるようになっています』(5日『相談票』から)、と回答している。確認したところ、ここでの『5人』とは、教育委員会から各小・中学校へ出された、新型インフルエンザ感染を早期に発見するための対応を定めた通知によるものだと判明した。同通知は、児童・生徒の毎日の健康調査を義務付けるとともに、「5人以上」の児童が発熱症状を示した場合は、最寄りの保健所に報告することを求めていた。
つまり、「5人」とは教育委員会が独自に決めた数字に過ぎず、市保健福祉局が職務の基準としていたと明言する厚生労働省による通知である「新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)に係る症例定義及び届出様式について」とは全く関係ないものなのである。
22日、念のため福岡市教育委員会に対し情報公開請求していた発熱調査に関する文書が公開された。6月2日から5日までの板付小の発熱児童数について見ると、日を追うごとに発熱児童の数が増えている。2日の2名から翌3日には8名、4日には11名となり、5日には18名となる。ちなみに博多区内の小・中学校全て(3校は文書不存在のため確認できず)についての同様の文書を入手したが、板付小のように発熱児童が増加したケースはなかった。同小で異常事態が生きていたことは一目瞭然なのだ。 前述したように博多保健所は『板付小に健康調査等』を行ったと明記している。博多保健所は、一体何の調査をしたというのだろう。そして、『健康調査』の結果、『新型―ではない』と判断した根拠は何なのだろう・・・。
「海外渡航歴や感染拡大地への移動、感染者との接触」が確認できなかったという理由をあげるのなら、それは意味を成さない。多くの医療関係者に話を聞いたが、問題の時期は空港などでの検疫も中止されているうえ、関西方面への移動も頻繁だった。渡航歴などを優先的に判断基準とすることは無意味だったとされる。むしろ、集団で発熱患者が出ることにこそ注意を払うべきだったとの指摘ばかりなのだ。博多保健所は「総合的に判断」と藪医者なみの言い訳をしているが、感染が拡大した事実は、その判断が「間違い」だったことを裏付けるものでしかない。
さらに、情報公開によって入手した文書の中には、博多保健所の「不作為ではない」との強弁を突き崩す、驚くべき証拠が存在した。
つづく
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