「トヨタとホンダが一緒なるようなものだ」。キリンホールディングス(HD)とサントリーホールディングス(HD)の統合交渉が報じられたとき、思わずこう叫んだ証券マンがいた。それほどインパクトが大きかったということだ。だが、統合成立までにはいくつかの難関が控えている。まるっきり異なる企業風土もその一つだが、最大の問題は、サントリーHDが非上場で、しかも、創業家の鳥井家と佐治家の資産管理会社・寿不動産が89.33%の株式を保有していることにある。
<統合比率という難問>
「対等の立場」。サントリーHDの佐治信忠会長兼社長(63)が、キリンHDとの経営統合交渉に臨む基本姿勢だ。
佐治社長は、まず両社の持ち株会社を統合し、部門ごとに合併させた事業会社を、その傘下に置く構想を描く。両社の統合は、あくまで「対等」を主張する。上場会社同士が統合する際の統合比率は、株価の時価総額(株価×発行済み株式数)が目安になる。だが、サントリーHDが非上場なので時価総額は使えない。代わりに、資産から負債を差し引いた株主資本を1株当たりで計算すると、キリンが999円に対してサントリーは590円。統合比率は1対0.6になる。
この統合比率は「対等」ではない。キリンがサントリーを買収することを意味する。「対等」にこだわる佐治社長が飲めるものではないだろう。「キリンに呑み込まれるだけ」と社内から統合反対の声が挙がるのは必至だ。
鳥井家と佐治家が、サントリーHDをキリンHDに売却するのであれば、話は簡単。両家が保有している寿不動産の株式を全株、キリンに売却すればすむ。創業家一族は巨額な株式売却益を手にできる。しかし、創業家一族は、「家業」ともいえるサントリーを売却するつもりはさらさらない。
となれば、統合の現実的選択は株式移転方式。両社が共同持ち株株会社を設立し、新会社の株式を、キリンHDとサントリーHDの株式と交換するやり方だ。
その際にいくらで割り当てるかが統合比率。両社の株主に1対1で割り当てれば、「対等」になるが、キリンの株主は不利益を被る。売上高でサントリーの1.5倍、最終利益でも2.5倍に達するキリンにとって対等合併の受け入れは困難。株主の理解を得られない。一方、キリン1株に対しサントリー0.6株を割り当てれば、「対等」にはならない。不利になる創業家が、統合に賛成するとはかぎらない。あちら立てれば、こちら立たずである。
今回の統合話は、佐治社長が、慶應大で同期だったキリンHDの加藤壹康社長(64)に持ちかけたとされる。最初から対等合併が困難とわかっていながら、佐治社長がなぜ統合に意欲的なのか。その謎を解く鍵は、創業家の資産管理会社・寿不動産にある。
【日下 淳】
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