―平均的な国民の所得はどんどん低下する一方ですよね。
山﨑 だから政府は、単なる福祉ではなくて、再訓練を行なったり教育レベルを上げたりといったセーフティネットを国民に提供していくことにもっと積極的になるべきだと思います。また、子どもを育てやすい環境を作るための子ども手当てを増やすことも必要でしょう。
その点で日本はフィンランドを見習うべきだと思います。フィンランドは92年にバブルが崩壊して打撃を受けました。そこからは経済政策の最優先事項として教育に力を入れ始めたのです。子どもを教育し、青年を教育すれば国民の教育レベルが上がる。そうすれば、頭で考え知識社会に対応できる人間の数が増え、国の生産力も違ってくるだろうと考えたわけです。
フィンランドでノキアなどが世界企業へと発展したことには、国民の教育レベルが上がったことが大きく影響しています。
それからもうひとつ、ヨーロッパといえば、ヨーロッパでは工場や企業を軸にしない経済活動の比重が増しています。農業もそのひとつです。ただの葡萄の果汁が何万、何十万のワインになり、田園地帯が観光地になりました。そのような付加価値をつけることに成功しています。
もともとブランド力があって、世界の富裕層の多くが最終的にはヨーロッパのものを欲しがりますが、今では、ファッションや宝飾品に限らず、農作物やそこに住む人にとっては何でもないライフスタイルそのものまでブランドにしてしまいました。その豊かな暮らしぶりに憧れて世界中から人が来るのです。観光は世界最大の産業ですが、これで収益を上げるのが上手なのがヨーロッパ人なのです。
―郵便局の活用にもよいアイディアをお持ちだそうですね。
山﨑 郵政民営化も、私が特別国会の最初の参考人として呼ばれたときに、いかに郵政民営化が間違っているかということをはっきり述べました。郵貯事業は、規模を4分の1ぐらいにして、年金の業務をやらせたらよいと思います。
例えば成人の人口が1,000万人を超える東京都に社会保険事務所は年金相談センターを含めても33か所しかありません。その点、郵便局は全国に2万4,000以上あるのですから、そこで年金に関係するお金の入出金やカードの記帳をやればどうでしょう。そして例えば、年金加入者1人につき、ひと月に500円でも納めるようにすれば、それだけでもゆうちょは安定経営ができるようになるでしょう。そうすれば地方の郵便局を維持できるし、社会保険事務を行う別の新しい組織を作らなくてもよくなります。
ひとつひとつの物事を全部きちんと考えていけば、常識的な結論は出ます。
農業だってそうです。日本は農業で大国になれます。日本は食の大国ですから食材でも大国になって当たり前です。次に目指さなければいけないのは、エネルギーと食糧の自給国家になることです。
今私たちは「太陽経済」を広める活動を進めていますが、「太陽経済」というのは、太陽の熱やエネルギーという今人間が使っているエネルギーの1万倍もあるエネルギーを科学技術の力で石油に代わるエネルギーにしよう、いうものです。
【文・構成:烏丸 哲人】
山﨑養世(やまざき・やすよ)氏
1958年生まれ。福岡市出身。東京大学経済学部卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営学修士(MBA)取得。大和証券を経て、ゴールドマン・サックス投信社長として同社を外資系トップの投信会社に育てる。ゴールドマン・サックス本社パートナー(共同経営者)等を歴任。02年、同社を辞し、シンクタンク 養世事務所を設立。金融・財政・国際経済問題等の調査・研究、政策提言を行なう。「高速道路無料化」を02年から提唱している。著書に『次のグローバル・バブルが始まった!』『日本「復活」のシナリオ~「太陽経済」を主導せよ!』(ともに朝日新聞出版)ほか。
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