<「太陽経済」の実現は日本経済復活のシナリオ>
―著書にあるとおりのあの理論なら、簡単に砂漠を緑化できますよね。
山﨑 そうですよ。砂漠もこれからは資源になります。砂漠には常に太陽光が降りそそいでいます。そこでできたエネルギーを今度は淡水化や緑化に使う。それから砂漠にある珪素を使ってシリコンを作れば、また太陽光発電ができる。
―それはもう、無限ですよね。
山﨑 そうです。このまま石油経済で行くと、何億年もかかって作った石油・石炭を、人間は200年で使い果たしてしまうでしょう。ウランで原子力、と言うけれど、ウランだって80年しかもたないし、インドや中国やアメリカが原子力発電所等を計画通り作ったところであと30年しかもたない。答えは見えています。
一方で、石油は使えば使うほど高くなるし、残りもわずかで、しかも中東にしかない。太陽はタダで、あと50億年も持って、そしてどこにいても手に入ります。こちらの方向に進むのが理にかなっています。
太陽光発電はコストがかかると言うけれど、機械のコストが高いというだけですよ。かつては高コストだったコンピュータの半導体だって、技術革新によって量産できるようになり、あっという間にコストを下げられました。同じことです。今後機械はコストが下がって、石油はコストが上がる。その交点をどれだけ早められるかが、これからの国家間の競争になります。ドイツはあと3年でできると言われていますが、日本はやるかどうかすら決めていない。こんなことで日本国が生き残れるのでしょうか。
先日、コペンハーゲンで開催されたWorld Business Summit on Climate Change(気候変動をめぐる世界ビジネスサミット)に行ったのですが、経団連の人は1人も来ていませんでした。これは、サミットに総理大臣が行かないようなものです。国連事務総長も、EUの委員長も、アル・ゴアやR.K.パチャウリ(気候変動に関する政府間パネル(IPCC)議長)まで来ているのに。ほんの少し前まで悪者だったアメリカは今やもう善玉で、悪役を探しています。今後、日本が抵抗勢力と目されないよう注意が必要だと感じました。
―そういう流れになってきているんですね。
山﨑 そうですよ、私はその場にいましたから。
―そうしますと、書いていらっしゃるとおり、太陽エネルギーが本当に世界の秩序や産業のあり方を変えていきますよね。
山﨑 そうです、これは産業革命です。そのことにみんなが気付いてきていていますから、今、世界中が一斉にそこに向けて走り出した感じですね。だから、これからの2年でほぼ勝負が決まると思います。今、取り組みがどこまでできるかで、それぞれの国のその後の国力が決まります。
それと恐ろしいのは、今まではエネルギーも食糧も水も、「金を出せば買える」ものだったのが、今後はそうではなくなる、ということです。地球上で温暖化が起きているということは、いずれ水がなくなり、食糧も無くなることを意味します。とくにアジアでは深刻な問題になるだろうと言われています。
今、ヒマラヤの氷がどんどん解けています。アジアの7大河川が干上れば、水はなくなり、食糧は取れなくなってしまいます。日本は、水はあるけど食糧は60%を輸入しているでしょう。それが暴騰するし、エネルギーもこのまま行けば価格は高騰するでしょう。
太陽光発電をやると今の電気の系統が乱れるという話も聞きますが、それは昔、インターネットのことを無秩序に信頼できない情報を流すから広がるはずがない、と言う人がいたのに似ています。インターネットが見事に普及したのは誰もが認めるところです。
太陽光発電が始まれば、今までは電気は全部電力会社から供給されるものだったのが、これからは我々も生産者になることができるようになります。やりとりがあるから双方向になり、やがてそれがネットワークになる。電気がIT化するということです。インターネットではルーターがそれをつないでいますが、電気ではスマートグリッドやスマートメーターがその役割が果たすのです。
【文・構成:烏丸 哲人】
山﨑養世(やまざき・やすよ)氏
1958年生まれ。福岡市出身。東京大学経済学部卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営学修士(MBA)取得。大和証券を経て、ゴールドマン・サックス投信社長として同社を外資系トップの投信会社に育てる。ゴールドマン・サックス本社パートナー(共同経営者)等を歴任。02年、同社を辞し、シンクタンク 養世事務所を設立。金融・財政・国際経済問題等の調査・研究、政策提言を行なう。「高速道路無料化」を02年から提唱している。著書に『次のグローバル・バブルが始まった!』『日本「復活」のシナリオ~「太陽経済」を主導せよ!』(ともに朝日新聞出版)ほか。
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