<失われる「絆」への危惧>
米国の要求で郵政民営化が議論になっていた10年ぐらい前のことである。出張した九州の地方都市で入った飲食店のカウンターで、隣り合わせの40歳前後の郵便局員と世間話を始めて、やがて郵政民営化の話題になった。彼が地元の郵便局員としての仕事に使命と誇りを持っていることは会話の端々に感じられたが、民営化による職場環境の変化もさることながら、気にしていたのが配達先の各家庭、家族との絆が失われることへの危惧だった。
郵政問題の根幹はまさしくそれである。手紙やハガキというコミュニケーション手段を大事に橋渡しする郵便局員と、配達される家庭との繋がりだ。地方、とくに田舎の一軒屋では老夫婦、あるいは一人暮らしの老人が多い。そんな老齢者にとって、郵便局員は身近な存在。届けてくれるものもさることながら、彼らの役務に感謝の念を抱いている。そんな老人が一人でも健在であることが、自然環境の崩壊を食い止めてもいる。その人たちに異変があれば、真っ先に気づくのは「駐在さん」よりも「郵便さん」だろう。そこにはカネに換算できない国の社会保障、安全保障上の価値があり、郵便は外交と等しく国の事業とすべきだろう。先の九州で出会った郵便局員が、民営化によるすさんだ職場でパワーハラスメントにさらされていないことを祈るばかりだ。
~了~
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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